ブックタイトル「鉄構造物の保存と修復」日本語版

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概要

「鉄構造物の保存と修復」日本語版

ために、また社会の要請に応じて、耐震対策を含めた大規模な改修が行われることが想定されるが、後述する材料や工法の保存の観点とのバランスをとる必要がある。活用のための改修を検討する上では、保存と機能の維持という両側面のバランスを見据えて計画していく必要がある。(4)機能性の確保土木構造物など供用下にある文化財は、構造躯体を残すだけではなく、土木施設としての機能を維持することが重要である。なぜなら、利用され続けることによって、文化財としての価値が社会により深く理解され、良好な状態で活用が続けられるのであれば、それは適切な保存につながるためである。重要文化財末広橋梁4は、昭和6年(1931)に建造された鋼鉄製上路式および下路式プレートガーダー橋である(写真6)。橋梁は建設以来、可動橋として現在も運用されている。平成28年(2016)より、可動橋跳上装置の一部である減速機の状態を調査し、機械の構成部品である歯車の破損調査が進められた(写真7)。これらは創建時の部品で、文化財的な価値を高めている重要な構成要素である。もし劣化が進行しているようであれば、当初より使い続けられている歯車を修理するか、取り替えるか判断しなければならない状況だった(写真8)。調査の結果、歯車の摩耗は2mm程度で、今後も適切なメンテナンスを継続すれば長期的な保存は可能であるとの知見を得た。ただし歯車は磨耗し続けるので、いつかは交換するものであっても現時点ではまだその時期ではないと判断したものである。現役の可動橋であれば、管理運営上可動させることが前提となるが、文化財としても、動くことによってその価値が強く認識される。したがって供用下にあるものは、その機能を継続していくため、部材の交換や、補強が必要となる。しかし機能確保のために、改修を際限なく進めていくと、保存の意義が薄まってしまう。そこで修理、(5)耐久性の確保土木構造物は、それが機能することによって損傷、損耗が発生することを前提として維持管理が行われている。そのため供用下にある土木構造物は予防保全(メンテナンス、モニタリング)の考えを入れた保全計画としている。鋼構造物の耐久性を確保する上では、腐食の抑制が必要となる。塗膜が徐々に劣化することで、鋼材の腐食に進展するリスクが生じる。鋼材は適切な維持管理を行っている限り、取替えなければならない程、劣化が進むことはないが、建造物が利用されているのであれば、利用に支障が出ないよう、定期的に修理を施す必要がある。余部鉄橋5は、塗装を定期的に実施するために橋守がいたというが(阿部英彦,稲葉紀昭,中野昭郎,市川篤司2008)、こうした維持管理は、現在では人件費の点などから難しい。そこで、管理者は塗膜などの材料に、長期的な耐久性を期待することと思われる。岐阜県大垣市の重要文化財旧揖斐川橋梁は、平成28年度(2016)から橋の修理と塗装の塗り替えを実施している(写真9、10)。長期防錆のためには、旧塗膜とさびをできるだけ除去し、付着のよい塗装を施すことが、その後の塗り替えのことを考慮しても望ましい6。(小坂潔彦、坂井田実2014)ただし、現在の塗膜には建設当初からの塗り替えの履歴を示す塗膜が残されている。そこで橋梁の塗装の状況を、1腐食・ひび割れ進行のリスク、2モニタリングのしやすさ、3維持管理(タッチアップ塗装)のしやすさを評価項目として定め、一部に旧塗膜を含めた下地を残している。鋼構造物の文化財には、長期的な維持管理を考慮する写真9旧揖斐川橋梁(提供: (株)文化財保存計画協会)写真10旧揖斐川橋梁塗装中の様子(提供: (株)文化財保存計画協会)41