ブックタイトル「鉄構造物の保存と修復」日本語版

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概要

「鉄構造物の保存と修復」日本語版

接作業は、鋼材同士を一旦仮止めした上で、隙間に溶接棒を溶かし込む(写真4)。1回では所定の性能が得られないため、3~4回かけて溶かし込みの作業を行う。溶接作業後にUT検査を実施するが、これで所定の性能が得られないと、再び溶接箇所を切断しなければならず大変な手間となる。しかし取替箇所を機械式の継ぎ手としてしまうと、全溶接で建設することとした当初設計思想には馴染まず、当初の工法が大きく変わることとなる。このような背景から、溶接による修理手法がとられている(大河裕司2018)。文化財保存にとっては、材料や工法の保存を考えることが、もっとも重要である。ただしその価値については、建造物の履歴を調査することによってはじめて明らかとなるため、事業関係者の調査に対する理解が必要となる。また、材料や工法の保存は、後述する施工性の検討があってはじめて実現することができる。(3)安全性の確保鋼構造物が日常的に利用されているものであれば、管理者は法令等に則って安全性確保に努めなければならない。事故となると社会的な問題となる可能性もあるため、文化財所有者にとっては、優先度が高い観点と思われる。重要文化財旧魚梁瀬森林鉄道の構成要素である犬吠橋は、去年9月、橋の中ほどの路面が15メートル余りにわたって、大きく陥没しているのが見つかった(写真5)。橋を支える鋼の部材の4か所が破断したのが原因だった。この橋は、路面が陥没するおよそ半年前に、県が点検を行って「早期に補修が必要」と評価し、補修に向けた準備を進めていた。県は、腐食などの老朽化した橋に、想定を超える重さの荷物を積んだ車両が通ったことで、部材が破断し陥没が発生したと見ている。(NHKNEWS WEB 2017)犬吠橋は、平成30年度(2018)より調査工事に着手し、破損した橋梁をどのように修理するか、検討を進めている。トラスが破断しているため、どの程度部材を再用できるか、破損状況を調査する必要がある。鋼構造の文化財を修理する場合、文化財として最小限の介入に留めるため腐食部分だけを切り取って溶接するという修理が考えられるが、力学挙動が支配する部位では、新旧部材間での応力分担の信頼性が不明確である場合があるため、実務的には難しい、との指摘もある。(五十畑2016、p.37)。公共施設や不特定多数の人が利用する施設では、高い安全性の確保が求められる。現行の法令等に適合させる写真5旧魚梁瀬森林鉄道犬吠橋写真6末広橋梁写真7末広橋梁可動橋跳上装置(提供: (株)文化財保存計画協会)写真8末広橋梁可動橋跳上装置減速装置の歯車の詳細(提供:(株)文化財保存計画協会)40第3章鋼構造物の文化財修理の現状と今後のあり方の考察