ブックタイトル「鉄構造物の保存と修復」日本語版

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概要

「鉄構造物の保存と修復」日本語版

建造物の調査は、破損状況だけでなく、材料や工法を記録し、古写真や古図面を整理して、各時代ごとの変遷をまとめる作業であり、材料や工法の価値は、その結果浮かび上がってくる。調査の結果、腐食した材料にまで価値を認めたケースもある。旧三河島汚水処分場喞筒場施設は、日本で最初に建設された下水道施設である(写真1)。平成11年(1999)まで現役の施設として運用され、停止後の平成19年(2007)に重要文化財として指定を受けた。施設の地下には下水処理のための暗渠があり、大正11年(1922)の稼働開始当初からの設備も残されていた。平成22~24年(2010~2012)にかけて実施された保存修理工事では、地下のポンプ井接続暗渠の調査を行い、暗渠を閉鎖するための阻水扉の調査を行った。阻水扉は、長年地下の湿潤環境におかれたため、腐食が進み、表面には汚泥が付着した状態となっていた(写真2)。通常であれば汚泥と錆を落とし、新たに塗装を施すことになる。しかし汚泥が付着し、錆びて凹凸があるけれども当初の鋳物の状態が分かる阻水扉は、操業停止した時代を示す産業遺産としての価値があるのではないか、という意見があった。そこで、現状を確認するため、扉の一部をブラストでケレンし、素地を確認した。その結果、黒錆による表面の侵食が進んでいるが、ほぼ半分以上の肉厚が残存していることが確認された。また、現状の錆び付きは、88年間湿気にさらされた結果によるものだが、保存修理工事後は、地下の湿度状況は改善される見通しも持てた。以上のことから、見学コース上に位置する南側2門については、錆・泥の除去を行うこととしたが、北側の2門の阻水扉については、現状維持のままとしてモニタリングを行い、今後よりよい保存を可能とする薬品や手法が出てくることを想定して、保存方法に余地を残すこととした(文化財建造物保存技術協会編2014)。(2)工法(技術)の保存前述の錆ついた阻水扉の例では、扉としての機能性は考えず、劣化した状態で保存することとした。しかし、多くの建造物では、材料を保存するだけでなく、機能性の確保も求められる。そこで、材料だけでなく、工法の保存も考える必要が出てくる。重要文化財名古屋市東山植物園温室前館3は昭和11年(1936)に建設され、国内で最初期の全溶接による鉄骨造温室建築として評価されている(写真3)。全溶接で建設された経緯は、リベット接合では鋼材同士の接合部が大きくなり、温室に影ができることを避けたことによる。設計思想にもとづいて名古屋市の営繕課が技術的に可能か検証し、建設が進められた。平成26年度(2014)より進められている保存修理工事では、破損した主要鉄骨構造部の修理が進められている。腐食した鋼材の修理方法は各部位で異なるが、溶表3鋼構造の文化財(修理中もしくは修理が完了したもの)名称建設年代構造及び形式神子畑鋳鉄橋明治16~18明治丸明治7鉄製、単径間アーチ橋鉄製、三牆シップ型帆船修理中(平成30年5月現在)修理年代昭和58昭和62、平成27妙法寺鉄門明治11鋳鉄製柱門昭和63学習院旧正門明治10鋳鉄製柱門平成19旧富岡製糸場鉄水溜明治7鉄製平成20三井石炭鉱業株式会社三池炭鉱旧万田坑施設旧筑後川橋梁(筑後川昇開橋)第二竪坑櫓明治42鋼製櫓平成21昭和10鋼製昇開橋平成22日本煉瓦製造株式会社備前渠鉄橋旧煉瓦製造施設明治28鉄製単桁橋○旧佐渡鉱山採鉱施設大立竪坑櫓昭和15鋼製櫓○高任粗砕場昭和12鉄骨造○旧揖斐川橋梁明治19鉄製五連トラス桁橋○美濃橋大正5鋼製補剛吊橋○名古屋市東山植物園温室前館昭和11鉄骨造○末広橋梁(旧四日市港駅鉄道橋)昭和6鉄製プレートガーダー橋旧魚梁瀬森林鉄道施設犬吠橋大正13頃鋼製単トラス桁橋○○報告書重要文化財神子畑鋳鉄橋修理工事報告書重要文化財明治丸保存修理工事報告書重要文化財妙法寺鉄門修理工事報告書重要文化財学習院旧正門保存修理工事報告書重要文化財旧富岡製糸場鉄水溜・烟筒基部保存修理工事報告書重要文化財三井石炭鉱業株式会社三池炭鉱旧万田坑施設第二竪坑巻揚機室ほか1基保存修理工事報告書重要文化財旧筑後川橋梁(筑後川昇開橋)保存修理工事報告書39