ブックタイトル「鉄構造物の保存と修復」日本語版

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概要

「鉄構造物の保存と修復」日本語版

家ではない。セント・パンクラス駅の大改造工事では、工事を進めるにあたり構造専門能力だけでなく、文化財価値の継承の知識も求められた場合のひとつの参考例である。新幹線ユーロトンネルの鉄道工事は、海底トンネルから始まり、通常の土木工事請負契約として英仏海峡トンネル鉄道リンク法(CTRL法:Channel Tunnel RailLink Act)に基づいて実施されてきた。最終段階のロンドン街中の駅の改造工事という都市土木の領域に踏み込んで、文化財の扱いという新たな条件に遭遇した。セント・パンクラス駅の改造工事では、文化財への扱いへの対処として覚書が追加的に取り交わされた。今後、経年劣化した構造物の保全が増える中で、同様の扱いが必要となる場合の参考となる。イギリスでは、一般土木工事にともなう歴史的鉄構造物の維持保全への関わりの機会の増加に対し、技術コンサルタントでは、文化財修復も事業内容に加えている。例えば、セント・.パンクラス駅の改修のフォスター&パートナーズ(Foster & Partners)やアラップ(ArupAssociates)などや、近年進行中のキュー・ガーデンの修復事業に関係するランボル(Rambol)などは、いずれもロンドンに本社をもち、建築、土木、構造などの複数の分野に関わるエンジニアリング会社で、文化財保全にも関係している。また、イギリス土木学会では、構造工学会、イングリッシュ・ヘリテッジ、建築保全協会とともに、歴史的土木構造物の修復に関する資格制度(CARE:Conservation Accreditation Register for Engineers)を2003年から制定している。歴史的建造物の保存に関する指導に当たる役割を果たすことが期待され、歴史的建造物の保存をしようとする発注者は、資格保有者の有無を目安に適当なコンサルタンツを選定できる。3.5.補修塗装における下地処理鉄構造の劣化で最大の課題は腐食である。経験的に鋳鉄、錬鉄に対し、鋼は腐食しやすいことが知られており、特に鋼構造では、塗装は維持保全で重要事項である。今回取り上げたフォース鉄道橋の事例では、100年を優に超え、かつ海上に位置し、北海からの強風に曝される環境下ではあるが、日本国内の鋼構造と比べて腐食の進行が遅いことがある。腐食によるリベットの交換をはじめ部材交換も、小物形鋼を除いて多くはないとされている。日本との違いとしては、気温、気候などの違いや、塗装系もあるが、最も大きな違いは、下地処理の違いと考えられる。日本でブラスト処理がされるようになったのは、近年のことである(旧揖斐川橋梁の例)。国内でブラスト処理が採用されなかったのは、ブラスト材の飛散などの周辺環境への影響の懸念や、鉄構造物の補修塗装工事が、地元の小規模企業が請け負うことから、大規模設備によらないサンダーなどの工具による除去が主流であったことによる。フォース鉄道橋では、2002年から開始された現在の塗装以前から、長年にわたって、下地処理にブラスト工法が使用され、ほぼ12年程度の間隔で塗替えがされてきた。イギリスではブラスト工法は、石造建築物の表面の洗浄にも使われる比較的普及した工法である。国内では、現在ではブラスト工法の採用や、塗膜剥離剤の併用も推奨されるようになっており、今後普及すれば、鉄部材の劣化や塗替え塗膜の寿命は相当の改善されることが予測される。註・参考文献1. Association for Studies in the Conservation of Historic Buildings(AschB)の論文集の論文に近年までのアイアンブリッジの保全の歴史が概観されている。(J.Heath, Conservation of the Iron Bridge,Shropshire 1779-2018, ASCHB Trasnsactions Vol.39, 2017, pp.52-65)2. 1973年に第1回「産業遺産保護のための国際会議」(TheInternational Conference for the Conservation of the IndustrialHeritage)がこの地で開催され、この時に産業考古学研究、産業遺産の保護・振興などを目的とした組織のTICCIH(国際産業遺産保存委員会: The International Committee for the Conservation of theIndustrial Heritage)が設立された。3.マネジメント計画は世界遺産登録の公共領域における不適切な建設行為や材料を減らし、修正すること、さらに道路工事を所管する多数の関係機関との調整を支援するためのガイドで地元自治体およびイングリッシュ・ヘリテッジによって作成された(THEIRONBRIDGE GORGE WORLD HERITAGE SITE Management Plan,Feb., 2017) http://www.telford.gov.uk/downloads/file/5626/igwhs_management_plan_-_final_3_april_20174.ニール・コッソン、バリ・トリンダー著、五十畑弘訳、アイアンブリッジ、建設図書、pp.66-73、177-186、19895. Neil Cossons, Barrie Trinder, The Iron Bridge 2 nd edition, pp.52-56,20026. Project iron bridge: saving an industrial icon (イングリッシュ・ヘリテッジのホームページ)(http://www.english-heritage.org.uk/visit/places/iron-bridge/projectiron-bridge/)7. De Voy, J., Williams, J. M., Strengthening Coalport Bridge, StructuralEngineering International (SEI), Vol.17, No.2 (May 2007) pp.178-1838.歴史的鋼橋の補修・補強マニュアル、土木学会、p.141、20069.五十畑弘、存続の危機にあるユニオン吊橋(イギリス)、橋梁と基礎Vol.49、pp.58-60、2015年3月号10.道路維持の公的資金の投入は不可能であることから、宝くじの売り上げの一部を財源として文化遺産保全の資金支援をする民間資金のヘリテッジ・ロッタリー・ファンド(HLF)に、2017年12月に応募書類が提出された。11. Gordon Miller, Stephen Jones, Samuel Brown and Union ChainBridge, The Friend of the Union Chain Bridge, p.277, Dec.2017.12.スコットランド側のチェインケーブルのアンカレッジについては、健33