ブックタイトル「鉄構造物の保存と修復」日本語版

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概要

「鉄構造物の保存と修復」日本語版

に設置されていた。これらのアーチ間をつないで、屋根の長手方向に15本のラチス桁が走り、これらを覆う当初の屋根の全長は200mを超えていた(写真36)。セント・パンクラス駅のトレインシェッドの錬鉄材は、ほとんどが1868年建設のオリジナルである。ユーロスターの発着ホームとなった2階部分のスラブには、錬鉄の床組とは独立した構造で、当初の鋳鉄製の柱で支持される厚さ40cmのPC版が新設された。この新設のPCスラブは、アーチの支点と連結されており、プラットホームの荷重とともに、アーチ水平反力を支持する。これに伴ってオリジナルの錬鉄のタイ材は切断された。なお、オリジナルの錬鉄床組、タイ材の継続使用については、腐食による劣化が著しいことの他、新たな上載荷重(タイ材は床組の桁を兼ねる)に抵抗し、かつ2時間の耐火抵抗をもつ要求性能を満たす必要があることから、断念されPC版への取替えとなった(写真37)。一方、9,400m2にわたる屋根の透過性の覆い材は戦災により損傷を受けて取り換えられている。オリジナルは、1851年の万博のクリスタルパレスで使われた波板タイプの補強ガラスを木製の枠にはめたものが使われたが、改修工事では、安全性に考慮された積層構造の透明ガラスをアルミサッシュにはめたものが使われている。2.3鋼構造物(1)フォース鉄道橋Forth Bridge(写真38)フォース鉄道橋は、全長2,528.7mのカンチレバートラスで、最大スパン521.3mは、建設当時世界最長であった。1880年代は鉄構造物では、素材の錬鉄から鋼への移行期であり、鋼の生産量も錬鉄を越える時期であった。しかし、機械、造船などの他の分野に対して保守的であった橋梁分野では、鋼の性能に懐疑的な技術者が多かった。この中で最初に本格的に鋼を使用したのがこのフォース鉄道橋であった。鋼材は51,000t、リベットは650万本が使用された。フォース鉄道橋の保全は、鉄道民営化によって設立されたレイル・トラック社から2002年以降引き継いだネットワーク・レイル社(Network Rail Co.)が所管している。世界遺産登録に向けて、1999年に開始された保全プロジェクトでは、最小限の損傷部材の取替え、竣工後の追加物の撤去などが実施され、この後の最終工程として、塗装工事が実施された。竣工後の追加物には、塗装作業の足場固定用の金物類があるが、これらの一部は撤去された。損傷部材の取替えでは、フォース鉄道橋では、腐食の進行は、ブレースの綾材などの小型形鋼に留まっていたため、リベットとともに撤去して新規材と交換がされた。リベットは丸頭のボルト、キャップ付きのボルト等に取替えられた。フォース鉄道橋の塗装は、海上橋としての腐食環境の厳しさから、維持保全の最大関心事として、長年にわたり継続的な塗り替えがされてきた。最新の塗替え塗装は、2002年以降に建設会社のBalfour Beatty社によって実施された。旧塗膜と錆の除去の程度は、再塗装塗膜の品質を大きく左右するが、フォース鉄道橋ではブラスト処理が行われた。銅の精錬過程で得られる副産物をグリッドとして使用し圧搾空気で時速360kmの高速で橋体表面に吹き付けて旧塗膜と錆の除去をして、鋼板の肌を露出する。この作業のために、足場を設置することとともに、グリッドの飛散を防止するために、工事個所の部材は、シートで覆いがされた(写真39、40)。塗装工事中写真35開業直後のロンドン・セントパンクラス駅のトレインシェッド(1868年)(出所文献20、c National Railway Museum / Science & Society PictureLibrary)写真36ロンドンのセント・パンクラス駅のトレインシェッドのアーチ(2009年撮影)30第2章イギリスにおける鉄構造物の保存修復からの教訓