ブックタイトル「鉄構造物の保存と修復」日本語版

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概要

「鉄構造物の保存と修復」日本語版

北米航路に就航したグレイト・ブリテン号は、リバプール・ニューヨーク間を片道14日間で結び、多くの旅客や貨物を運搬した。この後イギリスから大西洋、南アメリカ大陸南端を経てオーストラリアに至る片道60日の航路に就航し、合計25万人ものオーストラリア入植者を運んだといわれている。建造後30年を経て、貨物船に改造されたグレイト・ブリテン号は、リバプールからアメリカのサンフランシ写真23中央部付近のチェインとハンガー(2017年撮影)ハンガーと桁を繋ぐ部材は2009年以降64か所で新規の部品に交換された。スコまで石炭を運搬した。さらに10年が経過し老朽化が目立ち始めたこの船は、南米フォークランド島付近で座礁し大きな損傷を受けた。島に係留されたこの船は、以後40年以上にわたって羊毛などの貯蔵倉庫として使われた。しかし、腐食が進み倉庫としても使い物にならなくなると、ついにそのまま廃棄された。進水から94年の時間が経過していた。廃棄されて30年が経過する頃、この歴史的な船を建造地のブリストルに戻そうというプロジェクトが動きだした。朽ち果てた船体を台船で大西洋を横断し、建造されたブリストルの建造ドックに戻ったのは、進水後127年目のことであった。ドック到着間際には、同じ建造者ブルネルのクリフトン吊橋の下を通過した。この後、修復が進められ建造されたドックで現在の永久係留に至っている15。錬鉄製の船体の維持は、船体が長年月にわたって海塩に暴露される環境下にあったことから大きく破壊された箇所の補修とともに、全体として腐食の進行を抑制する湿度調整によっている。このため船体の喫水線以下のドック内は密閉空間とされ、センサーが設置されて湿度が自動管理されている16(写真26、27、28)。一方、喫水線より上の部分は屋外展示とし、定期的に塗装修理を行っている(写真29、30)。なお、相対湿度を管理することで防錆効果を期待する方法は、日本国内等でも事例が写真24桁下移動台車(2017年撮影)床組などの点検や修理に建設後に追加された桁下を走行する移動台車が利用される。写真25建造されたドックに永久係留されるグレイトブリテン号(2013年撮影)ドックは水を湛えるように見えるが透明板を浅く張り渡し、その上に水を貯めている。写真26ドック内部(2017年撮影)透明板の下側は密閉空間で乾燥空気が供給されている。この空間から船体と石積みのドックが見学できる。27