ブックタイトル「鉄構造物の保存と修復」日本語版

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概要

「鉄構造物の保存と修復」日本語版

った。ロンドンのテムズ川の1845年に架設され鉄道橋建設で撤去されたハンガーフォード吊橋の錬鉄チェインが一部転用されている。本橋は、4トンの荷重制限をしているが、日常の交通を担う路線の橋として維持保全がされ、補修計画では、日本の重要文化財に相当する1級(Grade I)の文化財としての配慮がされている。主ケーブルの錬鉄チェインは、アイバー(両端にピン穴のついた錬鉄板)をピンで結合したチェインで、1枚のアイバーは7in.×1in.(178mm×25mm)の断面で、長さ24ft. (7.27m)である(写真22)。錬鉄は鋼に比べると腐食速度が非常に遅いことが、国内の鉄構造物でも経験的に認められているが、クリフトン吊橋においても、腐食は極めて少なく良好な状態にある。合計4,200本のアイバーは、1970年頃に試験用に取り外した1本が新規のものに取り換えられたが、それ以外はすべて建設当時のオリジナルである。過去の損傷としては、アンカー部分の腐食があった。本橋の両岸のアンカーはトンネルアンカーで、道路面より下の地中に掘削されたトンネル内にアンカーされている。トンネル内はチャンバー(室)になっており、地上から内部に入ることができるが、浸入した雨水により一部に腐食が認められた。このため雨水浸入の防水補修でシールされる対策が講じられた。吊橋の点検個所として着目されるのは、走行自動車の輪荷重の変動を受けるハンガーケーブルおよび、その定着部がある。クリフトン吊橋でも、荷重計が設置されて負荷状態が常時モニタリングされている。2009年以降でも、ハンガーと桁の結合点のロッドが、橋のスパン中央付近を中心に64か所で交換された(写真23)。クリフトン吊橋では、維持管理を含む橋の運営主体は、政府認可の非営利団体が担う14。この団体は、政府や市などから公的な資金は受けていないため、有料橋の認可を受け利用者から通行料収入で、運営がされている。地元選出の10名と自治体の2名、合計12名の評議員で構成する委員会のもと、ブリッジマスター(橋守)および維持管理チームが維持管理を担っている。維持管理チームの所掌範囲は、道路および橋のすべてが対象で、橋の各部の日常の修理、点検から、道路標識、道路規制の看板設置、道路清掃、草の刈り取りや植栽の維持などである。維持管理において、年間を通じた点検は、専門コンサルタントにより通行車両と橋梁各部の状況がモニタリングされ、個々の補修工事は、業種ごとに専門施工業者に委託されている。近年実施した点検業務では、塔頂サドルの動きを観察する装置の新設や、桁下移動台車の走行ギヤーの追加がある(写真24)。この他の補修工事では、前述のハンガーの補修のほか、床組部分で1,300本のボルトの交換や横桁の再塗装、石造の橋台、塔の補修、清掃が近年実施された。(2)鉄製蒸気船グレイト・ブリテン号SS Great Britain(写真25)グレイト・ブリテン号は、幕末の日本に黒船が来航する10年前の1843年にイギリスで建造された世界で最初の外洋航行の鉄製蒸気船である。橋梁と同じ錬鉄板をリブで補剛し、リベットで組み合わせた薄肉構造の大規模な鉄船は、土木技術者のブルネルの手によって建造された。3,675t、全長97mの船体は当時最大であった。現在、イギリス西海岸のブリストルで建造されたドライドック設備とともに、永久保存されている。写真21クリフトン吊橋全景下流側右岸より(2017年撮影)写真22右岸側石造の塔とチェインケーブル(2017年撮影)26第2章イギリスにおける鉄構造物の保存修復からの教訓