ブックタイトル「鉄構造物の保存と修復」日本語版

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概要

「鉄構造物の保存と修復」日本語版

イアンブリッジ同様に随所で補修の手入れがされており、構造物自身が、保全の歴史を記録している。この事例で特筆されるのは、2005年3月に行われたグレードアップの補強工事である。2トン荷重で1台の車両のみの通行制限がされていたが、地域の交通需要から、3トンの制限荷重で車両台数の制限なしのグレードアップ工事の実施である7(写真9)。補修工事の中心は、この橋のもっとも重要な部分である鋳鉄製のアーチリブの補強で、この他、床を支える柱や梁も補強された。工法はアーチリブの鋼板接着による当て板補強である(写真10)。アーチリブの補強は、橋体を支保工で支持して無応力の状態とし、16mm厚の鋼板をオリジナルの鋳鉄アーチリブの両面からサンドイッチ状に接着している(写真11)。この他、支柱の追加、縦桁の補強がされた。輪荷重を受ける床版については、橋の負担を少なくするために、重い鋳鉄板とコンクリートから、軽量コンクリートに造り直された。日本国内でも同様に、構造本体の負荷を軽減するために、コンクリートの床版を鋼床版によって軽量化するケースは多い。なお、橋の外観は、これらの補強工事によって、建設当初と変わらないように配慮が払われている。一連の補修、補強工事の箇所は現橋で確認できる。コールポート橋は、アイアンブリッジより40年後に建設されたが、鋳鉄部材の劣化はアイアンブリッジよりはるかに少なく良好な保全状態にある。180年を越える鋳鉄構造であるが、構造物本来の実用機能の継続の維持保全がはかられている。一般には、構造機能の継続と、文化財価値の継承はトレードオフの関係となることも多いことから、文化財価値と引き換えに実用価値を終了させる選択肢もとられがちである。しかし、本事例ではギリギリまで両立を図る工夫がされ、通常の供用下にある土木構造物の機能を継続し、かつ歴史的価値を有する事例となっている。この橋の構造物本来の実用機能を継続しつつ文化財価値の保全を図る保全は、アイアンブリッジの事例とともに、稼働下にある歴史的鉄構造物の保全のあり方のひとつの参考となる。(3)ユニオン・チェイン吊橋Union Chain Bridge(写真12)ユニオン・チェイン吊橋は、エジンバラから南東に80kmほどのスコットランドとイングランドの境界に架かる。鋳鉄時代の鉄構造であるが、チェインその他の鉄部材には錬鉄が取り入れられた鋳鉄錬鉄混合構造の吊橋である。この橋は、スコットランドとイングランドの両方から日本の重要文化財に相当するA類(CategoryA)、1級(Grade I)に登録されているが、老朽化による廃橋の危機に直面することから危機遺産(heritage at risk)のリストにも掲載されている9。開通は1820年で、幅員5.5m、スパンは129mある。吊橋として建設当時、世界最長で、車両を通す吊橋としてもイギリスで最初であった。現在でも自動車の通行する現役の橋として世界最古の道路吊橋である。両岸から張り渡されたケーブルは、棒状の錬鉄のバーをピンで連結した3段のチェインで構成され、ハンガーで木製の床版を吊っている。左岸のスコットランド側には、高さ18mの石造の塔があるが(写真13、14)、イングランド側は川に迫る斜面に直接アンカーされている(写真15)。床版は木製で、鋼ロッドで補強されているが、過去何度か補修されている。現在のものは1974年に全面取写真7コールポート橋全景(右岸側より)(2015年撮影)支柱の追加、縦桁の補強がされ、床版は軽量コンクリートに変更された。写真8完成年「1818」を示す高欄中央部の橋名板(2015年撮影)22第2章イギリスにおける鉄構造物の保存修復からの教訓