ブックタイトル「鉄構造物の保存と修復」日本語版

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概要

「鉄構造物の保存と修復」日本語版

マネジメント計画では、世界遺産登録区域内の、舗装、階段、手摺の素材、標識、各種施設などの整備に対して地場の材料の使用を規定するなどの具体的な事柄を含めて詳述されている。これに対し、アイアンブリッジの構造本体については、2015年の時点の観察では、部材の劣化損傷、雨天時の水じまいなどの構造保全の部分が手薄の傾向がある。アイアンブリッジ本体の損傷、劣化については、イングリッシュ・ヘリテッジが中心となって対応しており、最近では大規模な保全が、2017年から18年にかけて実施される6。全体の防食対策とともに、主な補修箇所としては、これまでクラックが発見されている放射状の部材、スパンドレルの曲線模様(オージー)、右岸のアプローチスパンのアーチの当て板、1902年に追加されたアーチリブの支点近傍のストラップ部材、および床板が予定されている。保全工事は、すぐ隣に仮の歩道を設けてアイアンブリッジは全面通行止めとし、吊足場を組んで実施される。アイアンブリッジの事例は、構造が鋳鉄であることから、鋳鉄構造の事例が多くはない日本国内への直接的な工法としての適用性については、高くはない。しかし、アイアンブリッジの200年にわたる保全補修の歴史が示す各時代での取り組み方は、保全修復のあり方の参考となる。構造物はその存在する場所、その構造特性などの固有の条件の影響を大きく受ける。アイアンブリッジの劣化損傷も、多数の鋳造部材を集積して放射状部材、アーチリブが構成された特異な構造体が不安定な石炭層の地盤という地域特有の場所に築かれたアーチ構造に起因している。部材のクラックの発生は、不静定構造のアーチの支点が、河川側へのずれ込み移動することで、アーチを構成する部材にひずみが累積されたことによる。20世紀後半に実施された両支点を鉄筋コンクリート地中梁でつなぐ大規模な補修工事は、この対策として決定的な効果を発揮した(図1)。アーチスパンは近年の測量では30.093mで、当初の30.632m (100ft.6in)から539mm短くなっており、外的に静定な構造に補修するまで両岸が河川側にせり出していたことを示している。(2)コールポート橋Coalport Bridge(写真7)イギリスのコールポート橋は、2018年に創建200周年を迎える世界で最初期の鋳鉄アーチ橋である。セバーン川を3kmほど遡った場所にある世界現存最古の鉄橋で世界遺産のアイアンブリッジから遅れること40年ほどの完成である。この橋は、アイアンブリッジが近くにあることから、その陰にかくれた存在であるが、初期の鋳鉄アーチとして第一級の歴史的橋梁である。重要な点は、アイアンブリッジが歩行者に限定されているのに対し、コールポート橋は、自動車が通行できるようにグレードアップされた鉄橋として世界最古級である点にある。1799年に建設された最初のコールポート橋は、完成した18年後に鋳鉄の部材が破損したことから、旧橋の部材の一部を利用して1818年に再建された(写真8)。橋の長さは、アイアンブリッジより若干長く103ft.(31.2m)である。橋を近くで観察すると鋳鉄の粗い肌が目立つが、ア図1アーチ両支点間の鉄筋コンクリート地中ばり(出所:現地の説明板より)両支点は、川底に新設された鉄筋コンクリートの地中ばりでつないで固定化された(1972-75)。これによってアーチは外的に静定構造となった。21