ブックタイトル「鉄構造物の保存と修復」日本語版

ページ
20/120

このページは 「鉄構造物の保存と修復」日本語版 の電子ブックに掲載されている20ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

「鉄構造物の保存と修復」日本語版

イギリスにおける鉄構造物の保存修復からの教訓五十畑弘日本大学生産工学部環境安全工学科元教授1.はじめにイギリスにおける鉄構造物の保存修復について、今日も維持保全が継続され現存する鉄構造物の事例を対象として、日本国内の歴史的鉄構造物への参考の視点から述べる。鋳鉄構造としては、アイアンブリッジIron Bridge(1779年建設、アーチ橋)、および、コールポート橋Coalport Bridge (1818年建設、アーチ橋)、鋳錬鉄構造ではユニオン・チェイン吊橋Union Chain Bridge(1820年、道路吊橋)を取り上げる。錬鉄構造としては、クリフトン吊橋Clifton Suspension Bridge(1864年、道路吊橋)、蒸気船グレイト・ブリテン号SS Great Britain(1843年、プロペラ推進の鉄船)、ロンドンのパディントン駅Paddington Station(1854年)、セント・パンクラス駅St. Pancras Station (1868年)の錬鉄アーチのトレインシェッドを対象とする。鋼構造物としては、最初期の鋼構造であるフォース鉄道橋Forth Bridge(1890年、鉄道トラス)を取り上げる(表1)。2.各事例にみる保存修復状況2.1鋳鉄構造物(1)アイアンブリッジIron Bridge(写真1)アイアンブリッジは世界現存最古の鋳鉄製の橋梁である。建設後240年が経過するが、継続的な維持保全により、現在も歩行者交通に供用されている。これまで各時代で保全が施されてきたアイアンブリッジの構造本体は、それ自体が鉄構造物の保全修復の歴史を示す。構造本体に加えて、各種の調査、維持保全の経過の記録などの情報量は極めて多く、初期の鉄構造物の保存修復に関する重要な事例である1。アイアンブリッジは、ユネスコの世界遺産条約が発効後、比較的初期(1986年)に登録された鉄構造物を含む世界遺産である。登録範囲は、鋳鉄アーチ橋を含み延長5 kmの石炭、石灰等の鉱物資源を産するセバーン渓谷および、2つの支川の渓谷も含む一帯である。この渓谷はコークスを使って高品質で安価な鉄を作り出す近代的な製鉄法によって産業革命の始まった地域であり、1779年に建設された鉄を初めて大量に用いた鋳鉄橋のアイアンブリッジはその象徴となっている。この場所において、20世紀の中頃以降、アイアンブリッジ渓谷博物館を中心に産業考古学研究が始まった2。アイアンブリッジの設計上のスパンは100ft 6in(30.6m)で、トーマス・プリチャードThomas Pritchard(1723-1777)によって設計され、製鉄業者エイブラハム・ダービーⅢ(1750-1789)によって施工された.当初は表1対象の鉄構造物材料名称所在地建設年構造概要鋳鉄シュロップシャー州、現存最古の鉄橋、アーチアイアンブリッジ1779コールブルックデール100ft.6in.(30.6m)コールポート橋シュロップシャー州、コールポート1818 103ft.(31.2m)、アーチ鋳・錬鉄スコットランド、イングランド境界、ユニオン・チェイン吊橋ホーンクリフ1820クリフトン吊橋ブリストル1864イギリス初の道路吊橋、当時世界最長スパン129m、現存最古当時世界最長錬鉄チェイン吊橋、211m、4t荷重制限の有料道路橋錬鉄グレイト・ブリテン号ブリストル1843初の大型鉄製外洋船、初のプロペラ推進パディントン駅ロンドン1854セント・パンクラス駅ロンドン1868アーチ構造のトレインシェッド102ft.6in.(31.1m)/ 240ft(70m)鋼フォース鉄道橋エジンバラ郊外1890全長2,350mカンチレバートラス、鋼材51,000t、リベット650万本18第2章イギリスにおける鉄構造物の保存修復からの教訓