ブックタイトル「鉄構造物の保存と修復」日本語版

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概要

「鉄構造物の保存と修復」日本語版

五十畑:海軍は新しい技術に積極的で、溶接を最初に取り入れたのも船。溶接の船をたくさん作り、その最先端の船で船団を組んで青森で訓練をやっていたが、たまたま台風に遭遇し、船は波で殆どがやられてしまった。小野田:それがあって、溶接から一旦リベットに戻った。鉄道もその様子を見て、電気溶接で溶接橋梁をやろうと思っていたが、やはり止めておこうという話があった。その後、道路橋の田端大橋で全溶接が使われたが、蒸気機関車の活荷重を受ける鉄道橋には厳しいだろうということで、普及しなかった。田中豊はずいぶん熱心に、電気溶接をやっていたが。高力ボルトについて北河:修理の話に戻ると、古い溶接箇所は、修理でも溶接を使えばよいと思うが、高力ボルト以前の古いボルトの修理についてはどうか。小野田:古いボルトは構造部材では使っていない。リベットが入らないところや仮締めで使う程度だと思う。五十畑:日本ではリベットから高力ボルトへという技術の流れ。北河:高力ボルトの採用は戦後か。五十畑:そう。北河:戦後になると様々な技術の展開がある。高力ボルトと一言で言っても、当初と現在では違いがあるはず。五十畑:最も変わったのは材質。今から30年ほど前はF-11Tという、かなり強度が高いものを使っていた。それがある程度時間が経過して脆性破壊を起こした(遅れ破壊)。常にかなりの力で引っ張られていて、それが水素脆性といって、伸びることなく破壊してしまった。だから継ぎ手の下を見たらボルトが落ちているという事態が頻発し、橋では集中してボルトを取り替えた時期があった。現在F-11Tは使われることはなくなり、もう少し柔らかい10Tというものを使用している。そういった材質の変化はある。北河:リベットもよく見ればそうした変遷があるのか。五十畑:リベット以前に、日本ではないが、角型のくさび形のようなものを使っている。小野田:コッターピンという、くさび式のものだと思う。ハンディサイド社製のトラスでは部分的に使っている。横浜市に移設した霞橋でも使っている。五十畑:昔の継ぎ手の鋳物を見ると、木工の影響を受けていることがよくわかる。アイアンブリッジのディテールのように。構造補強、仕様調査について北河:構造補強の話題に移りたい。例えば東京タワーなど。西岡:東京タワーは、補強材を足していたと思う。北河:まず補強材料の点からいえば、鉄骨の補強には鉄骨を使用する。他の材料で補強することなさそうだ。西岡:最近だとタワーの免震がいくつかある。通天閣が中間層の免震をやり、名古屋テレビ塔が基礎下での免震を計画している。東京タワーは耐震で問題ないという話だったと思う。北河:鉄構造物は、煉瓦に比べると耐震対策のメニューは限られるのではないか。西岡:元々工学的に作られているので計算に乗りやすい。ところで鉄材の調査については主任技術者の立場に立って言うと、仕様調査などで、何を調査したら良いかよくわかってないということがあると思う。何を使って、何を調べたら鉄の構造や仕様が説明できるかは恐らく理解されていないと思う。北河:例えば材料のどの寸法を測るべきかなど。西岡:木造だと、計画寸法としてどこに芯があるか、部材はどういう寸法でできているか、その他材種、仕上げなど、これまでの文化財修理の経験からある程度指標が決まっているが、鉄の場合はそうではない。碓氷峠鉄道施設の丸山変電所の鉄骨トラスは、かなり詳細に調べた。旧富岡製糸場鉄水溜も計画寸法、材料寸法、材種、組成、工法まで一通り調べている。井川:確かに仕様調査がどれほど出来ていたかわからない。鉄製品なので、製造会社のカタログと比較対照をしたり、ロールマークなど、わかりやすいものは調べるが、その他についてはバラツキがあると思う。北河:図面の取り方もまちまちでは。西岡:それも多分こなれていないところはあると思う。北河:三次元レーザー測量の使用についてはどうか。西岡:実測という点では、意味があると思う。足場なく行えるという利点がある。その他西北石北井北井西北西北岡:話は戻るが、万田坑の櫓は塗装を変えた時にきれいになりすぎたと批判を浴びた。姫路城でも起こった問題だ。以前、日本ペイントの方がエイジングの話をしていたと思う。木造で言えば、平等院鳳凰堂の昭和の修理の際に、完全に塗り替えるのではなく、劣化した塗装風に少し色を付けたという事例があった。河:それが本当に劣化した時に、どのような状況になるかという問題もある。煉瓦だとそもそも色のばらつきがあるので、自然とグラデーションができるが、鉄はそうはいかない。田:古レールをつかった文化財はあるか。河:重文だと、布引水源地水道施設五本松堰堤の管理橋で、ドコービルのレールを使っている。文化財になっている鉄構造物は、ビルディングタイプから言うと橋、温室、タワー、やぐらなどがある。川:錆の話で言うと、現場では錆転換材(サビチェンジャー、サビロック)を使っている主任技術者は多い。その是非も検討したほうがよい。河:どんな問題がありそうか。川:以前東文研からは、黒錆でも劣化が進行するため、結局除去すべきと言われた。ただ、黒錆が良いのか悪いのかについては改めて確認しておきたい。岡:丸山変電所修理の時に、ボルトの露出部分にサビロックを塗った。今のところ不具合などはない。河:その経過を確認する必要はあるかもしれない。岡:すでにわかっている反省点は、色が変わってしまうこと。旧富岡製糸場鉄水溜で当初は錆止めの鉛丹塗装の上にタールが塗られていたものを、保存性を高めるためタールエポキシ樹脂塗料で塗装をした。これが紫外線によって白っぽくなってきている。もう一枚黒い塗装をかけるべきだった。河:皆さん、今日は鉄構造物の保存修復に関する貴重なお話、ありがとうございました。これらの話を基に課題を整理し、研究の方向性を決めていきたいと思います。今日はどうもありがとうございました。15