ブックタイトル「鉄構造物の保存と修復」日本語版

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概要

「鉄構造物の保存と修復」日本語版

ス板の上には30cm程度の水を入れている。西岡:空調を効かせれば、中は安定するかもしれない。ただ、水がかからない屋内であれば、足元や地下などは痛まないのか。電気防食のようなことをするのか。建築では、広島平和記念資料館の鋼管杭に、腐蝕防止のため電気を流し続ける計画がある。小野田:内房線の山生橋梁という、大正時代に作った鉄筋コンクリートの橋が、太平洋に面して架かっているが、去年あたりに鉄筋のリフレッシュにチタン溶射式電気防食を実施した。随分時間を掛けてやっていた。実際の現場でも、そういう使い方をしている。北河:鉄道の場合、現役の鉄橋の保守マニュアルはあるのか。小野田:あるにはある。井川:塗装の仕様もJR一律で決まっているのか。小野田:大体決まっている。ただ、何年に一度という決め方ではなく、検査し、劣化していたら修理するといった決め方。2年に1度の基本的な検査は義務付けられている。西岡:塗装の仕様はだいぶ変わってきているのか。小野田:塗装は海辺や山といった場所によって劣化の仕方が全く異なるので、ケースバイケース。北河:文化財の場合でも、塗り替えの頻度はケースバイケース。予算や環境などにも左右される。塗り替え頻度の定めは、道路橋にはあるのか。五十畑:例えば本州連絡橋などは50年という仕様がある。タワー状の橋脚は非常に手間がかかるので、高級塗装にして長く持たせるようにしている。あとは環境によって全く異なる。小野田:ひとつの方法として、安いペイントで何度も塗替えをするということもある。鉄の橋の場合は、メンテナンスコストは塗り替えのために発生してくる。西岡:旧揖斐川橋梁が、国指定の土木構造物として初めての塗装復原の例である。北河:建築だと、塗装材料のどの様な点にこだわるのか。西岡:木に塗る場合、落としにくくなるとか、そういうところを気にしている。あまり強いものを使うと、膜ができて塗装劣化、塗り替え時に剥がしにくい等、そういうことを嫌ってまだ弱い塗料を使っているところはあると思う。北河:そういう意味で言うと、鉄骨ならブラストをかけるので剥がしにくさはあまり関係ないのでは。井川:先程の話で、鉄骨煉瓦造など、手の届かない場所に鉄骨が入っているようなものはどうしていくのか。西岡:錆止め程度。おそらく何も出来ない。そしてそれほど傷んでもいない。構造から切り離して、ただの煉瓦造として検討していくことになると思う。北河:旧金澤陸軍兵器支廠では、錆びて膨張した内側の鉄材によって、表面の煉瓦に亀裂が生じていたが、躯体内部なので部分解体でもしないと修理が難しい。五十畑:五反田の旧島津公爵邸は、鋼棒を使って耐震工事をやったと聞いた。西岡:PC鋼棒を入れて締め込んでいる。今のところはまだ施工後の問題は聞いていない。リベット工法について北河:現場は良かれと思って、当たり前のようにやっていることが、実は文化財の価値を損ねているような事例はないか。小野田:リベットをハイテンションボルトにして、いかにもリベット風に見せるということは、かなりやってしまっている。五十畑:先程言った部分的な取替はかなり見られる。明治村にある、六郷川橋梁は人しか歩かないので良いと言えば良いが、見るとリベットを一部ボルトにしている。北河:それは良かれと思っているというよりも、やむを得ずやっているのでは。五十畑:恐らく締め付けているだけで、意識せずにやっている。北河:もちろん端から諦めているところも多いが、今やリベット工法を再現したいと考えている現場は割と多いのではないか。西岡:同じような話で、鉄サッシなどをどこに作ってもらったら良いか、ということが昔はわからなかった。今はいくつか頼める業者はいるが、そういう情報があると役立つ。北河:リベットの話で言うと、鉄道のボイラーはリベットでないと機能的にもたないという理由から、イギリスではボイラー修復技術者養成といった形で、民間団体がリベット工を養成している。日本も(株)サッパボイラが機関車のボイラーを修理している。小野田:サッパボイラは、今でも大阪に本社がある。梅小路機関車庫の機関車の修理を行っている。北河:転車台のリベットの修理も、サッパボイラが行った。今、リベット接合ができる会社としては、サッパボイラと、筑後川昇開橋に関わった成和工業株式会社が挙げられる。西岡:蒸気機関車を動かす限りは、ボイラーの方は今後も需要がある。小野田:仕事がなくなって廃業になってしまわないよう、国として何か支援すべきではないか。五十畑:橋で一番新しいリベットの修理事例は長浜大橋か。北河:藤倉水源地の管理橋ではないか。五十畑:船もリベットでないと駄目なのか。西岡:それも氷川丸の重要文化財指定の時に議論があった。今は全て溶接で修理するが、今後大規模修理となった場合、リベットを使うべきじゃないか、という話が出た。五十畑:タンクと船体は圧力容器と同じで、水密をとらなければいけない。戦艦大和と武蔵は、36mmのリベットを使ったと聞いている。以前NHKで何故武蔵は沈んだのか、という特番があったが、武蔵は魚雷でやられた。普通艦船だと砲弾は上から放物線を描いてくる。船体はリベットが入っているから、シェアリングだった。ところが魚雷だと船側に直角にあたりリベットは軸方向に引っ張りになる。何発も当てられていると、30何mmの鋼板でも、リベットが先にへたってしまう。そこから水が入って、ということらしい。リベットが構造物の特性を物語っており、船はやはりリベットで再現すべきだと思う。西岡:溶接もそうだが、船の世界の方が鉄の扱いに長けていると思う。五十畑:船と橋というのは、同じ補剛された薄肉構造で隣合わせ。建築でも、両国国技館の丸屋根などは船と同じ曲面であり、石川島造船所(現:IHI)が施工した。東京駅は大林組であるが、東京天文台のパラボラのドーム屋根も石川島造船の船の技術で施工。北河:確かに船は、橋や建物と違って三次元的に材料を組み合わせないといけない。ただ、今の船の関係者は、端からリベットを諦めていて、問題だと思う。小野田:結局リベットを使うと、さっきの話ではないが、爆撃を受けたときにリベットが弾けて二次被害が生じるというので、船では早い時期から溶接が普及したのだろう。しかし昭和10年の第四艦隊事件があって溶接の脆弱性が問題になった。14第1章研究の概要