ブックタイトル「鉄構造物の保存と修復」日本語版

ページ
15/120

このページは 「鉄構造物の保存と修復」日本語版 の電子ブックに掲載されている15ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

「鉄構造物の保存と修復」日本語版

西岡:原則として重視しているが、実態は様々だ。例えば薬師寺の水煙について、鉄ではなく青銅製であるが、成分分析をして、極力同じような金属の配合で作ろうとしている。北河:基本的には同じ材質で、ということだと思う。鋼鉄・鋳鉄・錬鉄というくくりは、木材で言う杉・松・欅と言ったレベルに相当するはずで、再現において組成の問題まで踏み込むのは特殊なケースではないか。西岡:確かにくくり的には樹種程度の違い。その他には、材料的な特性や、硬いとか、柔らかいとか。工法の再現と表面仕上げ、錆と塗装について五十畑:工法はどうか。材料は勿論、広い意味では、工法も当時と同じように再現することに価値があるのならば、例えばリベットは、当時のようにコークスではなく、高周波などで電機的に加熱して打ち込んでは、出来上がりは同じでも工法は全く異なるから価値がないということになってしまう。北河:木造建築の場合、工法はある程度自由ではないか。西岡:木造建築の場合は、原理原則論はありながらも、それに対応しきれていないところはある。最低限こだわっているのは仕上げと思われる。井川:東大寺修理にも関わったことのある大工でも、昔のやり方も大事だが、工事である以上は電動工具も使えないと一人前の大工とは言えないと言っていた。現実に折り合うためにはやむを得ないと。北河:その上で、仕上げだけは、ある程度伝統的なやり方をしていると。西岡:概ね見た目の問題だと思う。現れてくる部分は、鉋なら鉋、釿なら釿の仕上げにするというところまではこだわっていると思う。北河:そういう意味で言うと、鉄は錬鉄でも鋼鉄でも、塗ってしまうからわからない。小野田:逆に鉄は必ず塗装がつきまとうので、塗装をどうするかが大きな問題だろう。元の色がどのようだったのかといった問題になる。それに昔の塗料は現在と成分が異なる。北河:劣化、エイジングも異なる。小野田:鉄は定期的に塗り替えなければならない。西岡:検討した上で割り切って、現代の塗料を使用することが多いが、環境によっては昔の仕様でやるといった判断もでるのではないか。五十畑:その塗装自体に価値があるので、傷んでいないところを残すということもある。旧揖斐川橋梁は部分的に残す。かつては木造でも塗装を全て剥がして、それから塗るということをやっていた。西岡:今は、全ては剥がさない、と考え方も変わってきている。北河:錆の問題はどうか。旧美歎水源地の管理橋は、錆をとるとほとんど部材がなくなるので、錆を残して炭素繊維を混ぜた塗料を塗っている。普通の塗料と違い、この塗料は鋼材の伸縮に錆を追随させることができ、錆が残っていても施工できるという話だった。しかし、将来的に取ることは出来ず不可逆的な修理になってしまう。五十畑:全てを解体せずに、部分を残していくとそういう問題が出る。基本はブラストで地肌を出して塗り替えを行うが、板と板が重なったところなどはブラストをかけても錆が取れないため。移設した横浜市の霞橋も、その炭素繊維の入った塗料と同じようなものを使っている。北河:佐渡鉱山の竪坑櫓のように錆がひどいものをどうするか、という問題がある。構造的には他の躯体に置き換えるが、モノ自体を保存するときに、どこまで錆を取った上で塗装するか判断が必要。井川:美歎の管理橋はまさにそういう話で、ひとつの方法として、劣化部分をカバーし、固めてしまうということだと思う。西岡:劣化した桁は構造材として期待しないという判断か。北河:期待しない。別の桁を中に設置して支えている。材料保存の一例である。五十畑:旧揖斐川橋梁は、桁の上部が劣化により材料が腐食で穴が開いたような状態になっており、傷んだ箇所を最小限撤去して継当てしようとすると、継ぎだらけになってしまう。そのため、アングルを入れて、座屈しないようにしている。北河:アングルは溶接したのか。五十畑:ボルト接合している。現在のものはそれ以上座屈が進まないようにし、同じような働きの、第三の部材をつけている。北河:錆の話題としては、揖斐川と佐渡以外にどんな物件があるか。井川:旧三河島汚水処分場の鋳鉄製の扉。はじめは汚泥や錆を全て落とさないと劣化が進行するという話だったが、全部落としたら当初材がなくなるのではないかという懸念があった。試験的に一部ブラストをかけたところ、扉の肉厚は3分の2残っており、建設された大正期から現在までの期間に、これだけ残っているのなら大丈夫だろうという判断から全体にブラストをかけた。4つあった扉のうち、2つは錆などをすべて落としたが、残りの2つは今後より良い方法が出たときのため、そのまま残している。特に処理は施していないが、落下防止のための補強材はつけた。北河:これ以上、鋳鉄扉の錆は進行しないという判断か。井川:管理者の話では、下水を止めてから急激に破損が進んだとのこと。それまで下水が貯められ、水位が上下していた部分が一番えぐれている。現在は乾燥した状態にあるので、環境は悪くないと思っている。経過観察を続ける必要はあるが。北河:確かに進行しない、又は著しく劣化速度を遅らせるということならば、そのまま放置するということになるのだろう。屋外のものは屋根を付け、あるいは屋内に保管するならば錆の進行は抑えられるかもしれない。石田:氷川丸内部の船底部は錆びている。西岡:氷川丸は数年に一巡するような形で、常にメンテナンスをしているが、あれは結露が原因だろう。保存環境と塗装石田:例えば煉瓦で言ったら止水層をつけるように、鉄の劣化をある程度抑制、コントロールするには塗料しかないのか。勿論塗料も100%ではないと思うが。西岡:鉄は空気に触れれば錆びが進むので、それを遮断することが大事なのだろう。五十畑:室内や密閉空間であれば、湿度を40~50%にコントロールすると進行しないという実験結果がある。勝鬨橋は、機械室が開いているため、湿度のコントロールができないと言われた。新尾道大橋は、箱桁にエアコンを入れ、塗装せずに錆対策をしている。あとは、英国のグレート・ブリテン号がドックで永久展示されているが、あれはドックと言っても地面から持ち上げ乾燥空気を入れ、水面のようにガラスの板を貼り、ドック内を見学できるようにしている。ガラ13