ブックタイトル「鉄構造物の保存と修復」日本語版

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概要

「鉄構造物の保存と修復」日本語版

鉄構造物の保存と修復に関する勉強会議事録抄録日時:平成29年6月14日(水)16時00分? 18時00分場所:東京文化財研究所3F共同研究室参加者:五十畑弘(日本大学(当時))、小野田滋(鉄道総合技術研究所)、西岡聡・井川博文・坂本萌(以上、文化庁)、北河大次郎・石田真弥・山府木碧(以上、東京文化財研究所)(敬称略)北河:鉄構造物の保存と修復に関する研究を行うにあたり、まずは現状の課題の抽出を行いたいと思い、ご参集いただいた。修理理念に関すること、工法、技術に関することなど、皆さんの考えをお聞かせいただければ幸いである。リベットと高力ボルトの混用、溶接修理について北河:五十畑先生にお持ちいただいた『鋼構造シリーズ14歴史的鋼橋の補修・補強マニュアル』は土木学会から発刊されたもので、かなり実用的。五十畑:これは土木学会の鋼構造委員会に小委員会を組織して作成したもの。委員も実務技術者主体で、実務をかなり意識している。しかし発刊から10年が経過し、記載した内容も現在の仕様から少しずつズレが生じている。また、資料として見る人がすぐに何をすれば良いかはわからない、という問題も指摘されている。北河:鉄に関する課題として、リベット技術の継承に関する課題と錆などによる材料劣化の2つがまずは考えられるが、他にはどんなことが挙げられるか。五十畑:鉄という材料もそうだが、供用下にあるかどうか、ということも一つのポイントになってくる。そうすると、現行の基準の問題、公共施設だと基準との適合性の問題となる。接合方法の変更に関する問題として、例えばリベットを一群の中から1本取り替える場合、摩擦接合にせずに、同じ伝達メカニズムの打ち込みでリベットと同様の支圧・せん断で持たせるようにしなければならない、といった類の問題が出てくる。これは道路橋示方書で決まっている。10本のうちの1本を摩擦接合にしてしまうと、9本と1本の応力分担が変わってしまう。当初材の保存範囲に関する問題として、傷んでいる部分だけを最小限取り替えるということで出てくる問題がある。静岡県小山町の森村橋(今年度半解体、来年度修理)もそう。例えば下弦材がピン継ぎ手で駄目になっていて、ピン継手を残すことは諦めるが部材の真ん中は大丈夫ということになると、どこまで変えるか、ということになってくる。井川:名古屋市東山植物園温室前館は、溶接修理を実施している。ちょうど今年度に溶接工事を大々的にやるということで、現場としては一番参考にしやすい例なのではないか。北河:名古屋の例では、基本的に木造と同じく悪いところを切って置き換えるという手法が使われている。施工段階に入って特段問題は生じていないか。西岡:職人の選定に苦労したらしい。今は、神戸の造船所で働いている人が作業にあたっている。溶接の品質をどう確保するかについては現場作業となるので、構造的に十分な溶接となるか工場とは異なる環境で試験施工している。また、溶接時に鉄が伸縮するため、解体を伴わない溶接で、ゆがみが残らないようコントロールしながら継ぐことはかなり難しいと言っていた。修理方法としては、継ぎ鉄(悪いところを切って取り替える)、接ぎ鉄(弱くなった部分に溶接で接ぐ)、添え鉄(鉄材を添えて溶接補強する)といった作業を、劣化状況を確認しながら実施している。具体的な鉄の補修法については、良い情報が得られると思う。また、当初材と修補材の区別のため、取替材すべてに「2015R」のように、年号とリペアの「R」を組み合わせてひとつひとつ刻印している。ここまで本格的に実施した例は少ない。五十畑先生の話との関連で言うと、構造的にリベットと高力ボルトが噛むかどうかというところまで、文化財建造物で考えた事例はあまりないと思う。旧筑後川橋梁(筑後川昇開橋)のときも構造的な検討までは踏み込めていない。五十畑:少し古いが、横利根閘門は全部リベットでやったが、あれはどのようにしたのか。北河:筑後川昇開橋は、鉄道橋を歩道橋に変更して荷重が大きく軽減されているので見かけのリベットでも可能だったかもしれないが、横利根閘門の門扉は当初と同様の荷重を受ける。水密性の確保にも留意しながらリベットを施工したと思う。当時はリベット職人の確保が今ほど難しくなかった。西岡:長浜大橋は。北河:長浜大橋は構造的な検討はしていないはず。筑後川昇開橋の例と似ている。西岡:そもそも鉄は、継手を解体しづらい。五十畑:ピン構造の場合、ピン継ぎ手が重要で、まだ使えそうだったら、解体せずにその前後を切断する。そうすると、溶接をどこまで許容するかが問題となってくる。井川:鋳鉄や錬鉄などの溶接修理はどうか。五十畑:避けたほうが良いと言っている。20世紀初頭あたりまでは不純物が多い。不純物が一律に多ければコントロールできるが、品質にばらつきがあるため難しい。西岡:通常は、せいぜい硫黄分やリンが多いかどうかを確認している程度ではないか。五十畑:『歴史的鋼橋の補修・補強マニュアル』では、そのあたりに関しては、古い材料はできるだけメカニカルな継ぎ手に、と消極的に記載している。ただ、溶接だとシンプルで、自由度もある。継ぎ手の隣に大きな継ぎ手をつけると、継ぎ手だらけになってしまう。材料の再現について西岡:材料を取り替える場合、新たな鋼材を古いものと同じように再現するのはかなり難しい。五十畑:文化財としては、同じ材料を使うのが一般的か。西岡:原則論はそうだが、ほぼ不可能。井川:供用下にある鋼構造物の場合、新しい鋼材に置き換える例はかなりあるのか。五十畑:あると思う。世界遺産のビスカヤのゴンドラ(スペイン)は、車輪が見たところすべて新しくなっていた。消耗品かどうかはわからないが。井川:文化財の修理は、これ以上劣化が許されない、というギリギリのところで行うのが多いが、供用しているものは、かなり計画的・予防的にメンテナンスを行っている。そこに文化財とのギャップがある。北河:錬鉄のように、再現自体難しいものもある。錬鉄については、アイアンブリッジ渓谷でいまだに製造しているという話を聞いたことがあるが、外部の修理に対応できる量と質を確保しているかどうかはわからない。五十畑:同じ材料を使うということは、文化財からするとかなり意味のあることか。12第1章研究の概要