ブックタイトル「鉄構造物の保存と修復」日本語版

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概要

「鉄構造物の保存と修復」日本語版

から紡ぎ出される教訓を、技術、体制、担い手に係る日本の現状の課題に関連づけて整理していただいた。第3章は、井川博文氏による「鋼構造物の文化財修理の現状と今後のあり方の考察」である。全国の鉄構造物の文化財修理の実例をもとに、文化財修理において重視すべき点が整理されている。今後の修理を考えるための貴重な指針といえる。第4章は、中山太士氏による「鋼鉄道橋におけるリベット接合の維持管理上のメリットと技術継承について」の論考である。JR西日本管内に大量に残されているリベット接合による橋梁の維持管理の経験と研究を踏まえ、主に高力ボルトとの比較から、リベットの技術的メリットを整理していただいている。あわせて、JR西日本で現在実施しているリベット技術継承のための試みについても紹介していただいた。第5章では、長島宏行氏に「航空機における金属部品の腐食とその対応について」を執筆していただいた。航空機で使われる主な材料はアルミニウム合金であるが、本稿では航空機の修理だけでなく、他の金属製の構造物の修理でも参考になりうる情報を盛り込んでいただいた。最後に第6章で、本章で指摘した課題と研究テーマに直接対応する事例分析を、当室の石田真弥が行っている。昨年度煉瓦造建造物で試みたのと同じ要領で、鉄構造物の劣化と破損に関する基礎情報を整理した上で、現状の課題と対応策を具体的な事例に基づき紹介している。註1.土木分野では「鋼構造」という言葉が一般的だが、今回は鋼鉄だけでなく鋳鉄、錬鉄も研究対象とするため、本書ではそれらを総称して「鉄構造物」とする。2.『煉瓦造建造物の保存と修復』、東京文化財研究所、2017.これはウェブ上でも閲覧することができる。http://www.tobunken.go.jp/imagegallery/conservation/17/index.html3.『鉄構造物の保存と活用』、東京文化財研究所、2010.これはウェブ上でも閲覧することができる。http://www.tobunken.go.jp/imagegallery/conservation/09/index.html4.橋のどのような価値を尊重して工事を行ったのかという点については、以下の文献を参照のこと。紅林章央:国重要文化財の永代橋、清洲橋の長寿命化、建設機械施工、69(8), 2017, pp. 39-44. ISOHATA,H., KUREBAYASHI, A. and MORI, A.: Seismic reinforcement of historicalsteel bridges in Japan, Proceedings of the Institution of Civil Engineers- Engineering History and Heritage, Volume 169 Issue 3, 2016, pp.111-122.5.ただし、英国には今なお稼動している蒸気機関車が数多く存在しており、その修理を担う技術者を、BESTT(Boiler & Engineering SkillsTraining Trust, http://www.bestt.org.uk/)という団体が養成している。これはヨーロッパで唯一のリベット研修機関で、研修生の中には、橋梁や船舶の修復を行う者もいるという。(2017年10月17日ロンドンにおけるBESTT Gordon Newton氏、Henry Cleary氏へのインタビューによる。)6.国際基督教大学アジア文化研究所・東京文化財研究所・日本航空協会:国際基督教大学所蔵ジェットエンジン部品に関する調査報告書、2018.冒頭に記したとおり、わが国における鉄構造物の保存と修復の蓄積はまだ少なく、ここに示した研究成果も限られた情報を基にまとめられている。そのため、これらが実際の保存、修復にどれほど有効であるのか、いずれ検証する必要があると考えている。そこで、まずは本書を修理現場に活かしていただき、鉄構造物の保存と修復に関する新たな議論のきっかけにしていただければ幸いである。11