ブックタイトル「鉄構造物の保存と修復」日本語版

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概要

「鉄構造物の保存と修復」日本語版

を集約、伝承する仕組みを検討する必要があろう。さらに、稼動している機械装置を文化財として管理、修理するための考え方や手法もいまだ未整理、未開発であり、この点についてもいずれ本格的に取り組む必要があると考えている。最後に上記4つの課題とは関係ないが、鉄構造物の特徴として、部材が文化財価値を知るための貴重な情報源になっていることを今回改めて確認することができた。鋼材には、旧来から広く知られる部材の製造会社や規格を示すロールマーク(写真3)だけでなく、部材の製造番号や組み立てに必要な番付も刻まれていることがある(写真4、5)。旧揖斐川橋梁(岐阜県)(p.97)では、塗装修理の過程で明らかになったそれらの情報を整理し、従来知られていなかった輸入鋼材の施工の実態を詳らかにしようとしている。完全な工業製品で、一見味気ない鋼材の組み合わせであっても、規格品ならではの豊かな情報が部材に刻まれている。文化財修理は、単に構造物の健全性を回復するだけでなく、新たな事実の発見により文化財価値をさらに顕在化することが重要であるが、鉄構造物では、刻印を調査・整理することがそれに結びつく。平成29年度(2017)に東京文化財研究所が実施したジェットエンジン部品の調査でも、刻印の存在が、当該部品が日本製であることの重要な物証となっている6。3.本報告書の構成以上の経緯や問題意識に基づき、本書では第2章から第5章まで外部の有識者による論考を、第6章で近代文化遺産研究室による調査の成果を収めている。第2章では、今回の研究にあわせて平成29年(2017)10月に実施された現地調査とそれまでの知見を基に、五十畑弘氏が「イギリスにおける鉄構造物の保存修復からの教訓」をまとめている。イギリスには、18世紀から19世紀にかけて、先進的な鉄構造物が数多く建設され、その多くが今も現地に残されている。保存と修復の蓄積も豊かである。本稿では、橋梁、駅舎、船舶などの保存と修復においてイギリスが培ってきた経験と、そこ写真3フォース橋(スコットランド)のHALLSIDE社のロールマーク写真4長池大橋(旧四谷見附橋)のピンの製造番号写真5長池大橋(旧四谷見附橋)の平鋼に刻まれた番付10第1章研究の概要