ブックタイトル未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

ページ
9/62

このページは 未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念 の電子ブックに掲載されている9ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

ルを守りながら、やむを得ない場合に加虐性がある手法、材料を使う」ということを守ろうとすると無理があるからである。一般的な修理であれば、鉄筋が露出してしまっている場合は周囲のコンクリートを削り取り、鉄筋のサビを落としたのち防錆剤を塗布し、周囲のコンクリートには再アルカリ化処置を施して新たにかぶりのコンクリートを打設する。しかしながらこの手法を文化財に適用してしまうと、新たに打設したコンクリートの範囲が明確に識別できない事態が予想され、後にどこを修理したのか明確にわからなくなることにつながる。2?2.鉄構造物次に鉄構造物について、事例を紹介する。鉄構造物の劣化のメカニズムは、皆さんよくご存じと思うが、鉄の腐食による劣化が支配的である。鉄構造物ではそれを防ぐために塗装やメッキといった手法で鉄材を保護し構造物を保っている。しかしながら、これらの塗装やメッキも永年効果が続くことはなく定期的なメンテナンスが必要となる。このメンテナンスを怠ると鉄材の腐食が始まり一気に劣化が進行する(写真2)。鉄が腐食してしまった時、それがメインの構造部材であった時にどのような措置が可能なのであろうか。これまでの木製建造物の修復手法でいけば、同種同材同技法で制作された部材であれば切り替えても良いことになっている。これを適用すれば同じ鉄で同じサイズの部材と入れ替えても良いことになる。しかしながら、この時に同種同材ということをどう考えるのであろうか。木材の場合は同じ樹種であれば良いことになっている。では同じ鉄というのはどういうことであろうか。一口に鉄といっても時代によって成分はどんどん変化しており、より高強度で高性能な材料に変化している。このようなものをひとくくりに鉄として扱って良いのであろうか。ごく単純に同じ「鉄」ということでよいという考え方もあるだろうが、その辺、きちんと議論されているわけではないと思う。もちろん、これまで使われている鉄の成分分析を施し、そっくりの鉄材を使用することも可能ではあるが、大型化してきている近代文化遺産に多量に使用されている鉄材の成分を合わせて作るという予算もないのが現実である。さらには細かい話で恐縮だが、若干の成分差でも、溶接やボルトなどで接合した場合、その境界において、ミクロの電位差が生じそれが原因となってそこから腐食が始まる原因となる。さらにもう一つ、明治や大正期あるいは昭和の初期に制作された鉄構造物は溶接が使われておらず主にリベット接合が使われている。現在では、このリベット接合ができる鉄工所が極端に減っており、ほとんどできないのが現状である。そういう場合、どうしたらよいのであろう。ただし。これに類する問題は何も今に始まった話ではないと思う。ものを作る上で失われてしまった技術が使えずにやむなく代替の技術や材料を使って修復されているものはたくさんあるのではないだろうか。そういう意味では、問題ではないかもしれない。2?3.レンガ造構造物レンガ造構造物について述べる。レンガ造構造物の劣化のメカニズムは概ね、塩類風化と凍結劣化(凍結破砕)が主である。塩類風化は、レンガ内部に含まれる塩類や外部(雨水や地下水)からもたらされた可溶性塩類が、レンガ内部に浸透した水分が表面から蒸発する際にレンガ表面に結晶化して残り、その結晶化に際してレンガの表面崩壊が起こる現象近代文化遺産における保存理念と修復理念7