ブックタイトル未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

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概要

未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

近代文化遺産における保存理念と修復理念中山俊介東京文化財研究所保存修復科学センター近代文化遺産研究室室長1.はじめに東京文化財研究所保存科学研究センター近代文化遺産研究室では、これまで様々な近代文化遺産についてその保存、修復あるいは活用といったことに関して、各地からご相談を受け、それに対する答えを導き出すべく現地での調査や、関連する事項に関する海外調査などを行い、関連する専門家の皆様に意見を頂戴するなどして知見を得、加えて当研究所において研究会を開催し、そこでの発表や意見交換の中から回答を見つけ出すというやり方で活動を行ってきた。平成28年度にて今中期計画も一旦終了するということもあり、今回はこれまで行ってきた研究会とは少し趣を変えて、「保存理念と修復理念」ということに焦点を当てて実施した。これまで、近代文化遺産の保存と修復の基本となる考え方は、近世までの文化財の扱いと同様の保存理念や修復理念が適用されてきている。特にそれが問題となっているということではないと思っている。「保存する場合には極力オリジナルを残す」「修復する際にはオリジナルを残す努力をした上で修復が必要な場合には可逆性のある手法、材料を適用する」などというのは間違いではないし、そこは変わっているとは思っていない。上記のことをただ読むだけでは非常にシンプルであり、特に変えるべきことでもないし変えなくとも全てに共通して適用できる理念であると思う。近代文化遺産の保存と修復に関して実際に物を扱う場合、至極単純そうなこの二つのことを当てはめていくのは容易でないことにすぐに気づかされる。しかし、現場においてこれは理念の問題なのだろうか?と悩むときにどうも違うような気がすることがある。理念とは「不変なもの」であり、その場その場で変わってはいけないものである。そう考えると、現場でいつも悩んでいることは理念の問題ではない様に思えるのである。2.保存現場での取り組みまずは保存修復現場での事例を幾つかお話ししよう。2?1.コンクリート構造物コンクリート構造物の保存に関する事例である。コンクリート構造物が持つ劣化のメカニズムの代表として中性化が挙げられる。これは構造物表面からコンクリートがアルカリ性から中性へ近づくことで、コンクリート製の構造物中に配された鉄筋が腐食を起こし、それが原因となってかぶりのコンクリートを破壊する現象である。こうなると、コンクリート表面に亀裂が入ったり、ひどい場合にはかぶりのコンクリートが剥落し鉄筋がむき出しになる。そうなるとさらに鉄筋の腐食が進むという悪循環に陥ることになる(写真1)。このようなコンクリート構造物を文化財として修復する場合、根本的な解決方法が提示されてはいない。修復の理念である、「極力オリジナ近代文化遺産における保存理念と修復理念5