ブックタイトル未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

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概要

未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

●滅びの文化端島-軍艦島に関して日本人というのは、滅びの文化、切腹などそういった文化を尊ぶ精神構造を持っている民族だと思います。そういう観点を元に、端島-軍艦島は今日のテーマに最も合致した、難解な問題を持った施設だと思うのですが、ここに関して、皆さんの知見に基づいた、個人的なご意見で構いませんので、是非お聞かせ下さい。私は直接は関わっておりませんが、2回ほど見に行ったことがあります。コンクリートの建物の基礎が現れ、切れてしまっていました。世界遺産の方は、皆さんご存知のように向かって左側の方だと思うのですが、基本的には軍艦島という、あの形態が非常に印象的です。文化財的に保存するのだったら、いろいろな意見があるのでしょうが、僕はどちらかといいますと、保存するのは本当に大変だと思います。勿論可能ならば良いのですがコスト的に考えると大変なので、僕はやっぱり滅びの美学を推したい。そして大切なのは、軍艦島ということなので、景観イメージでなにか残せるような、そのような方法が例えば考えられると思います。またこれは全く無責任な発言ですが、全体の景観として、軍艦というイメージが残せるような形でやると良いですし、やはりコンクリートというのは補強が大変ですので、ある場合には設計図があればそれを元に同じ形に作り変えてしまう。そういうかたちで形態保存をしていけばいいのではないかと思います。(伊東孝)生産設備だけを重視して、他のものには価値を見出さないという考え方があることは残念に思います。本日、産業技術史ということでお話をさせていただきましたが、産業施設以外のものも文化財としての価値があると思っております。しかし、例えばあの地域に沢山の人が住んでいたけれど、その生活を伝える遺産を全て残せるかと言われると、やはり手をつけるのは難しいと思います。以前清水建設で軍艦島の集合住宅を作っていた方にお話を伺ったことがあるのですが、そのうち痛むから壊して作り直すつもりだった、と仰っていました。産業技術としては建物を永遠に保たせる必要は全くないわけで、我々がやるべきことは恐らく、なるべくしっかりとした記録を取ることです。例えばかまどは、それぞれの家ごとに構造が微妙に違っているのかどうかなどです。そういうものを保存していくということに意味がありますし、将来復原できる可能性を残すためにはやはり詳細な記録が必要になります。日本人が歴史に誇りをもつ、あるいは祖先たちが経てきた歴史を直視することができなかったために、生活史が日本で発達しなかったのだと思います。(鈴木淳)●コンクリート構造物に生じる問題コンクリートの保護のための数種類のコーティングのテストの紹介があったが、それぞれにおいてどのような評価が得られましたか。難しい質問です。私たちは産業界で稼働している設備の保全と修理は大きな問題と考えているため、56