ブックタイトル未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

ページ
48/62

このページは 未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念 の電子ブックに掲載されている48ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

ハウを大幅に超えたことも示している。近代建築・近代化遺産の修復に求められる新たな構造体や内外装に関する知識と技術、活用や耐震診断に関わる諸分野の参画を求め、連携・調整をはかり、それらをもとに全体をまとめていく役割が必要になってきたのである。そこでは、より確かな理念を共有し、それにしたがった手法の構築が求められる。従来の主任技術者の役割と立場をどう扱うかも含め、体制の再検討に迫られているといえる。人材養成、理念の研鑽以上のように重要文化財の修復における調査研究、設計、監理に携わる人材は、近代建築・近代化遺産に及んで、主任技術者以外のさまざまな専門家を確実に必要としている。また重要文化財以外の、登録有形文化財、都道府県・市町村指定物件、重要伝統的建造物群保存地区の特定建造物などの物件もあり、改修を加えて積極的に活用すべき物件や、住み続けていくことが前提となる性格をもつ物件が大幅に増え続けている実態もある。重要文化財の場合は、養成の制度が確立しているが(図7)、むしろ物件数としてははるかに多いその他の文化財に関しては、その対策が緒に就いたばかりである。重要文化財からその他すべてを含んだ文化財の修復の全体を充実させていく取り組みが、現在の大きな課題である。そこでは、2.で取り上げてきたような、現実に直面して考える実践的な理念の研鑽が不可欠と思われる。註1.平成25 ? 27年度科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)基盤研究(C)の採択を受けた研究「近代建築昭和期修復の歴史―豊平館再修復を機会とする修復の理念と手法の研究」。研究代表者・木村勉2.公益財団法人文化財建造物保存技術協会「建造物修理アーカイブ」http://www.bunkenkyo.or.jp/archive-site/による。3.昭和52年度から文化庁の補助金事業により、各都道府県単位で近世社寺の緊急調査が順次実施され、この成果にもとづき昭和50年代半ばより平成5年ごろまで、近世社寺建築を中心とした指定がおこなわれた(『文化財保護法五十年史』p.146文化庁株式会社ぎょうせい)。4.昭和38年に完成した泉布観(大阪市)が初の近代洋風建築の修復で、この時期、旧開智学校校舎がそれに次ぐ。木村勉、長岡造形大学紀要12号「近代洋風建築修復の検証-修復技術の理念と手法の研究-」の表01近代洋風建築の修復年代(p.117)参照。5.旧グラバー住宅の修理が昭和42年から開始された。以降、旧新潟税関庁舎、旧中込学校、旧リンガー住宅と続き、50年代になるとさらに急増する。同じく注04の紀要参照。6.村田健一、『平成16年度文化財建造物保存修理関係者連絡協議会資料』文化庁、p.70掲載。7.重要文化財建造物保存修理事業のマニュアル的な資料として、文化庁の前進にあたる文化財保護委員会から昭和39年に改訂発行された「文化財建造物修理関係資料」がある。同書には保存修理の設計書の書式が示され、そこに具体的な方針が雛形として記述されている。そこまで詳しく示された資料はその後も発刊されず、現在も書類作成にはこの資料が引用されている。同資料の「書式10」以降には、補助金を得て実施する修復事業の設計書の雛形が示されており、たとえば「工事仕様」の「e木工事」の項では、「1再用材当初材は将来の保存に支障ない限りつとめて再用する。(後略)」とあり、各工事にこの種の表現が用いられている。文化財保存の最も基本となる方針を示しているこの考え方は、変わることなく今日の事業でも書類にこの記述が活かされている。8.木村勉、長岡造形大学紀要12号「近代洋風建築修復の検証-修復技術の理念と手法の研究-」の表02ペンキ塗装調査の変遷(p.119)参照。最初期は塗膜の目視や擦り出しによって色彩の特定をしていたが、昭和40年代に済生館本館の修復の際に、初めて塗膜成分の科学分析がなされた。この時は塗膜全層一体でしかできなかったが、やがて一層ごとの成分(正確には元素)の構成が特定されるようになった。また、当時の仕様書やマニュアル書の解明や工法の研究も進んだ。これら研究の発展により、在来の塗装の塗膜が貴重な建築資料であるという認識が高まることとなったのである。9.文化庁から、平成8年に「文化財建造物等の地震における安全性確保に関する指針」、平成11年に「重要文化財(建造物)耐震診断指針」、同年「重要文化財(建造物)所有者診断実施要領」、平成13年に「重要文化財(建造物)基礎診断実施要領」が示され、これらに従い耐震診断を経て耐震補強がなされていった。10.註4同じく紀要12号の表を参照。泉布観、旧ハッサム住宅、旧開智学校、仁風閣、旧函館区公会堂などが該当する。11.文化庁の補助事業上の補助金交付の条件として、文化庁の承認を受けた「主任技術者」を使用しなければならないとされている(昭和54年5月1日付文化庁長官裁定「文化財保存事業費及び文化財保存施設整備費関係補助金交付要綱」による。46