ブックタイトル未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

ページ
43/62

このページは 未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念 の電子ブックに掲載されている43ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

づく建築として、修復には建築自体に対する深い洞察力を必要とし、それなりの豊かな実践経験にもとづかなければならないが、事業として進めていくうえでは工事種目は少なく、専門性がきわめて絞られるという性格をもち、もう一方の近代建築・近代化遺産では、社寺などとは別な次元の問題が浮上してきたといえる。新たな構造体や近代に至って生まれた内外装、それらの安全確保のための耐震対策による構造補強、積極的な活用が求められることから発生する設備の更新・充実や附属施設の新設など、工事種目が格段に増してくる。そして近代化遺産になると、それらはさらに多岐にわたり膨大となる。近代建築や近代化遺産には、従来の伝統建築の修復の経験で蓄積してきた態勢や取り組み方では対応しきれない状況が生まれているのである。2.近代建築・近代化遺産の修復の特性、理念、課題これまでに述べてきた状況の実態を次のような項目に整理し、この項目ごとに具体的な特性を示し、求められる理念を検討し、課題を挙げていきたい。1保存の方針(年代設定など)2本体の修理(経年による劣化・破損)3歴史あるたたずまい・空間の維持4耐震対策(構造体への補強)5活用(用途、部分改修、設備の充実、付属施設)1保存の方針(年代設定など)村田健一氏の統計6によれば、本格的な修復を実施した際に採られる保存の方針は、「当初復原」、「改変時復原」、「現状維持」に分類すると、図の通りとなる(図6)。いずれも当初復原の率は高いが、今後にその数を増すと見られる近代化遺産については未知である。近年に「保存管理計画」の策定や修復を実施した物件を見ると、必ずしも当初復原は多くない。とくに大規模あるいは複合する施設になればなおのこと、たとえば富岡製糸場は「重ねてきた歴史とシステムを保存管理していく」として、昭和20年までの状況を保存するとしているし、三井石炭鉱業株式会社旧万田抗施設では閉山時、旧佐渡鉱山採鉱施設では休山時と、それぞれほぼ現状維持に近い状態を目指している。それらには、操業が停止されるまで稼働していたままの内部空間や、そこに働いた人々のさ保存の方針*村田健一『平成16年度文化財建造物保存修理関係者連絡協議会資料』文化庁、P70社寺民家近代建築近代化遺産ⅢⅡⅠⅡⅢⅠⅡⅢⅠⅠⅡⅢ当初復原改変時復原現状維持図6重要文化財の保存の方針集成館:改造時期に復原碓氷峠鉄道施設(丸山変電所):当初復原旧手宮鉄道施設機関車庫:改造時復原旧筑後川橋梁昇開橋:現状維持旧三河島汚水処分場喞筒場施設:S36年時維持近代洋風建築・近代遺産の現状・課題-修復(調査・設計・施工・監理)の取組から見る-41