ブックタイトル未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

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概要

未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

のではなく、さらにそれに続いて、話が盛り上がり、展開できるような施設のあり方やストーリーづくりが望まれる。現在関係している日本銀行前の常磐橋の解体復原調査を例にとる。調査の中で、むかしの常盤見附の敷地の範囲が判明した。敷地境界線は今の道路にも食い込んでいる。この場合、敷地は復元できなくても、その部分の道路の舗装材料を変えたり、線を描いたりして、敷地の範囲を明示することができる。運転手や歩行者が、「なんで色が変わっているのだろう?」と思えばしめたものだ。何らかの形で説明できるからだ。何か、関心をもたせる、もってもらう、そういう仕組みづくりと工夫をすることが必要と思える。遺産を元通りに復元することも大切だが、それが無理な場合、イメージ提供をふくめ、次善の策としていろいろな形や方法で、遺産の復元方法を追求していくことが大切である。システムにしても残せない場合は、それを理解させるような工夫が必要であるとともに、できれば楽しみながら理解できたら最高である。説明板をつくればよいというものではない。ひとつの機械を動かすことによって関心の度合いもちがう。今度は何があるのだろうと期待をもって動きまわり、見学してもらえるような利活用を考えた保存修復理念があれば、産業遺産のファンも増えるにちがいない。産業遺産を含む文化財は、研究調査は前提とした上で、いかにファンを増やすかを考えることも重要だ。それによって政府や自治体も予算を出しやすくなる。私の専門は都市計画やまちづくりなので、歴史遺産をどのようにまちづくりに活かすか、という視点で取り組んでいる。その意味では文化財プロパーの人には問題発言とみなされる意見もあるにちがいない。今後とも是々非々の意見交換をしながら、よりよい歴史遺産のあり方をめざしたまちづくりをおこないたい。註1. TICCIHの経緯については、種田明「TICCIH(国際産業遺産保存会議)40年(1973~2013)と日本」『産業遺産研究の現在-TICCIH Taiwan 2012日本論文集』(産業考古学会、2014年)に詳しい。2.伊東孝『日本の近代化遺産』(岩波新書、pp.25-26、2000年)3.「ニジニーダギル憲章-TICCIH産業遺産憲章の暫定日本語訳全文(宇野いつ子翻訳)」(http://messena.la.coocan.jp/ACADEMIA/JIAS/NIZHNY_T_charter.html)4.「産業ヘリテージを継承する場所、構造物、地域および景観の保全に関するICOMOS?TICCIH共同原則ICOMOS?TICCIH最終版、2010年10月8日」(加藤康子他訳)5.写真データは、横山悦生教授(名古屋大学)、石田正治氏(中部産業遺産研究会)から提供していただいた。6. 2016年2月に現地を再訪したが、巨大フィギュアは存在した。地域の一つのランドマークになっているようだ。再訪したときも、地域でイベントがおこなわれていた。倉庫地区では、ミニ鉄道が敷かれ、大人も子供も楽しんでいた。レジャーランド化しているとの批判もあり得るが、遺産地区が身近なものになっていることは確かである。36