ブックタイトル未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

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概要

未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

リストを提供するよう、各国に依頼した。日本ICOMOSでもワーキング・グループ(WG)をつくり、建築遺産と産業土木遺産を検討している。どのようなものが、20世紀遺産と考えられるのだろうか。1)東海道新幹線先ほどの東海道新幹線が話題にあがった。しかし最初のうちは、東海道新幹線には疑問符がつけられた。何故かというと先ほどの評価内容は、車両とかシステムなどの技術面が評価されているが、文化遺産として一体何が残せるのか、という点にあった。車両は考えられるが、動産であり、不動産ではない。現地保存できるものはないだろうか。高架橋はどうであろうか。高スピードで列車が走るには土木構造物のインフラ施設が高い精度でつくられ、維持されなければならない。しかし橋桁は消耗品で架け替えられてしまう。どのようなものが構造物の構成要素としてあげられるのかを検討した結果、考えついたのが、橋ならば橋台は残る、施設として一番残るのはトンネルである。このような理由付けで、東海道新幹線を候補物件にあげることができた。建築遺産では次のようなものがあげられている(すべては掲載してない)。1広島平和記念資料館および平和記念公園、2上野恩賜公園と文化施設群、3国立代々木屋内総合競技場、4明治神宮内苑および外苑、5南禅寺界隈の邸宅、庭園群など。日本ICOMOSでは今年(2016年)の3月までに正式に決めようとしていたが、若干延びている。2)立山砂防施設群産業土木遺産では白岩砂防堰堤を中心にした立山砂防施設群を筆頭に、8つの候補があげられている。SABO(砂防)は、国際語にもなっている。3)黒部川水系の発電所施設群ダム高が日本一で知られる黒部ダム(黒四ダムとも通称される)、山口文象の設計した小屋平ダムや黒部川第二発電所、目黒橋などがある。国立公園内なので地下発電所もつくられている。4)瀬戸大橋個人的には瀬戸内海の吊橋群にしたかったが、吊橋が沢山あって話が散漫になるので、絞るほうがよいということになった。で、ひとつ絞るとしたら、明石海峡大橋ないしは瀬戸大橋が候補物件になる。橋の構造物としては明石海峡大橋の方が綺麗でスマートだが、技術的には瀬戸大橋の方がむずかしい。瀬戸大橋は2重橋で、道路以外に鉄道も通す。鉄道荷重は道路荷重より重いし、ブレーキをかけたときの制動荷重も大きい。瀬戸大橋の方が技術的難度は高い。以前テレビで、開通した頃の番組だが、列車が通ったときの桁のたわみを画面で紹介していた。橋の正面から望遠レンズで構えていると、四国側からきた列車は、最初は見えているが、桁の中央に近づくにつれ列車がだんだん沈み込み、中央付近に来ると列車は見えなくなるほど沈む。桁は大きくたわんだ。桁のたわみは恐らく4~5 mはあるのだろう。瀬戸大橋ができた頃、ある委員会の席上で、計画にたずさわった先生に、二つの吊橋の間に、なぜ大きなアンカレッジを置いたのか尋ねたことがある。連続吊橋にした方がデザイン的景観的にも美しい橋ができたのではないか、とお聞きした。わたしの質問の仕方が悪かったのか、先生はむっとした顔をして答えてはくれなかった。今回、瀬戸大橋を「20世紀遺産20」の候補にあげるに際し調べたところ、たわんだ時に伸びるレールの伸縮装置をふくめいろいろ技術的なむずかし34