ブックタイトル未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

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概要

未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

た方法は、トラス桁がふたつあったこともあり、橋の部材のいいところ取りをして再構成した。それでも橋の大事な部材やディテールは生かして構築している。橋長は半分くらいになっている。港の見える丘公園の真下に位置し、トラス構造を俯瞰する形になる。霞橋は、常磐線の隅田川橋梁の時代から数えると、3回目の現役利用となる。本来は、総体として保存することが理想だが、いろいろな制約があってこういった形でしか保存できないのは残念だが、次善の策として認めたい。橋が全くなくなるよりは、いい。江ヶ崎跨線橋は橋の入口の橋門構や上の横部材に特徴のある橋だったので、その特徴が残されたことをよしと考えたい。このような橋の保存事例はわが国でははじめてで、世界的にも類例が少ないと考えられる。昨年、土木学会田中賞を受賞した。近代以降の鉄の構造物では、このような文化財のあり方もあり得るのではなかろうか。(3)20世紀遺産話は変わるが、新幹線は世界遺産になるだろうか?同じような質問は講演会で何回かしたが、首をひねる人が多かった。1974年、世界遺産の不均衡是正(正式名称the Global Strategyfor a Representative, Balanced and CredibleWorld Heritage List、世界遺産戦略ともいわれる)が発表された。それまでの世界遺産は、次の5分野の物件が多いと指摘された。1ヨーロッパ物件、2都市と信仰物件、3キリスト教物件、4優品物件、5先史時代と20C以外の物件。この反省のもとに、3つの分野の遺産価値に注目するよう喚起された。1文化的景観、2 20C建築、3産業遺産である。日本では、世界遺産戦略というと産業遺産の登場が強調されるが、順番としては3番目である。また日本の文化財行政も、世界遺産戦略を受けて変わったことがわかる。たとえば文化的景観が重要文化財になったのは2004年だし(但し世界遺産の文化的景観より範疇は狭い)、国立西洋美術館が重要文化財になったのもこの一環であり、戦後の建物までも重要文化財に指定されるようになった(問題提起はフランス政府)。この報告をもとに、世界遺産委員会では専門家に分野別の委託調査をしている。その調査報告書のひとつに、鉄道遺産の世界遺産候補報告書がある。世界遺産候補として8つの鉄道施設が選ばれ、その中に東海道新幹線が入っている。最後のCase8に掲げられている。この専門家の中に日本人は入っていないので、海外の専門家が評価したことになる。どのような点が評価されたのか?技術面と社会面とがあげられている。技術面では、1スピードと快適性を最大限に追求した技術的成果、2旅客列車技術のブレークスルー、3急勾配・急カーブのない専用高架軌道、各車両が駆動モーターを保有、4模範的な安全基準、地震計と連動した列車自動停止装置。社会面では3つあげられている。1列車による旅行(移動)概念を一新した、2敗戦国・産業依存の陰からの脱却を示すシンボル、3 20C後半における陸上高速技術のリーダーシップを握ったシンボル。以上から、「世界遺産になり得る」と報告書では結論づけている。世界遺産の登録申請をする際に、この報告書を活用しない手はない。(4)「20世紀遺産20」昨年(2015年)の12月、日本ICOMOSの総会で「20世紀遺産20」の活動が紹介された。世界遺産委員会は、「20世紀遺産20」の近代文化遺産の保存理念と修復理念―産業遺産の利活用を通して33