ブックタイトル未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

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概要

未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

写真12三菱重工業長崎造船所のハンマーヘッド・150トンクレーン写真13三池港閘門タープリターが必要だし、機械や動力は動かしてほしい。映像情報も必要だ。産業遺産は建築遺産と違って、敷地や空間も広い。高雄の港湾区域は現役部分をふくめるとさらに広い。見学するときも動きまわって見たり、見られることが大切だ。場所が広く、ものは大きく動きもある。深さや高さもあり、ダイナミックである。そういう状況を立体的に体感し、理解できるような工夫や利用が必要だ。保存の仕方や保存理念は、頭や図上だけで考えるのではなく、体で感じられれば、実感として理解できる。産業遺産のこのような特徴は、建築遺産や土木遺産にはない特徴であり、魅力である。そういう大小の気づきや発見、驚きや感動が味わえ、それを引き出すのが産業遺産の利活用といえる。4.拡大する「産業遺産」概念(1)稼働遺産「明治日本の産業革命遺産」が昨年(2015年)世界遺産に登録された。登録遺産の特徴は何か。現役の稼働遺産が大きな特徴だ。しかも動態という魅力だけではなく、世界のビッグ・カンパニーであり、リーディング・カンパニーでもある三菱重工業と新日鐵住金の施設が世界遺産に登録されたのだ。真の意味で現役で活躍している施設が世界遺産になった。構成資産の中には軍艦島のようにむずかしい保存の問題もあるが、国際的なリーディング・カンパニーの遺産が登録されたことは今後の世界遺産のあり方に大きな刺激を与えるに違いない。写真11は、遠賀川の水源地ポンプ室で、新日鐵住金の施設、工業用水用ポンプ室としては最古、しかも現役である。構成資産として登録された。写真12は、現在日本に3基しか現存しないといわれるハンマーヘッド・クレーン(150トン能力)で、これも現役だ。イギリスのスコットランドから輸入された。写真13は三池港で、空から見ると平面形状はハミングバード(ハチドリ)の形をしている。有明海は潮の干満差が激しいため港の入口は閘門をもつ。これら現役の施設が世界遺産に登録されている。20年前ごろに訪問した際は、周りにボタ山や他の施設もあり、炭鉱町らしい雰囲気も見られたが、近年は整備されすぎてちょっとさびしい気がする。以上見たように、世界に冠たるリーディング・カンパニーの現役の施設や港湾が、世界遺産に登録されたことに大きな意義があるといえる。これはまた日本の文化財概念や文化財行政を変えるきっかけになると考えられる。現に従来、わが国では世界遺産登録の窓口は、自然遺産が環境庁、文化財が文化庁であったが、今回は、文化財以外の現役施設をふくむため、内閣府近代文化遺産の保存理念と修復理念―産業遺産の利活用を通して31