ブックタイトル未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

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概要

未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

以前の状態がわからなくなっている施設もあった。個々の事例を紹介することはできないが、ツォルフェラインの利活用の印象を以下のようにまとめることができる。1敷地は十分広いので、整備区域と未整備区域とに分けるとともに、保存施設と転用施設を区別して利活用している。2システムとして遺す意図が感じられ、あわせてかつてのシステムを理解させるような展示と工夫がある。たとえばかつての施設の配置は、案内板などでもわかるようになっている。石炭運搬路を旅客運搬路に変えて、ビジターの気持ちを一気に鉱山施設の中に取り込み、その延長として石炭搬送システムの中に展示スペースがある。ビジターは、訪問者として外から展示施設や展示空間を見るのではなく、施設内に取り込まれ、感情移入させながら展示を見、展示空間内を移動する。一見すると各施設や建物は同一の保存や修復理念ではなく、また同じコンセプトで展示されていないかのように見える。しかし一歩引いてみると、大きな理念やコンセプトは共通しているが、施設や建物を具体的に利活用するときに、理念やコンセプトの解釈や考え方に相違があらわれるようだ。それはデザイナーやまとめ役の個性として現れているのかも知れない。このよう写真6モニュメント的な施設だけの保存例(フランス、ノール=パ・ド・カレー)(写真横山悦男氏・石田正治氏提供)なことが、遺産の保存されたところと変えられたところの強弱としてあらわれ、産業遺産に関心のない人でも楽しめる空間と展示になっていると考えられる。(2)リールの炭鉱(フランス)昨年(2015年)、TICCIHフランスの大会が北部地域の都市リールであった。TICCIHの世界大会は3年毎にあり、4年前には台湾で開催された。アジアで初めてのTICCIH世界大会であった。リール大会はポスターセッションを含めて申し込んだが、都合で急遽キャンセルせざるを得なかったため、写真データをお借りして報告する5。リールはパリの北200kmに位置し、ベルギーの国境に近い。リールの炭鉱ノール=パ・ド・カレー鉱業盆地にはどのような特徴があるのか。炭鉱労働者住宅はまだまだ残っている。興味深いのがボタ山である。九州の筑豊地域でボタ山を探すのは困難だが、ノール=パ・ド・カレーではボタ山景観を大切にしている。しかもボタ山に登れ、頂上からは炭鉱地域を眺められる。炭鉱の全体像がイメージできるのではないかと思いながら、大会参加者から意見を聞くと、全体像は理解できなかったという。なぜか。まず、案内施設や情報センターとしてのサイト・ミュージアムがない(ようだ)。地域は東西120km、幅12kmもあり、広大な地域である。しかし全体像がわからないので、場所ごとのあり方や特徴も理解できなかった。レールなどの施設は取り払われ、システムが分からない。立坑櫓とか建物は残っているが、どちらかというとモニュメント的なものや目立つものは保存されている(写真6)だけで、列車とか機械などの関連設備は保存されていない、などのコメントがあった。28