ブックタイトル未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

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概要

未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

はじめに東京文化財研究所では、1990年前後から煉瓦造構造物、船舶、航空機といった近代の文化遺産の調査研究を皮切りに、多様な物件の保存修復のための基礎的調査研究を開始しました。独立行政法人に移行した2001年からは「近代の文化遺産の保存修復に関する調査研究」と題する研究プロジェクトを立て、これまで鉄道、大型構造物、水道施設、鉄構造物、コンクリート構造物など様々な分野別または素材別に毎年テーマを定めて内外の研究者を招いて研究会を開催してきました。それぞれの内容は、『未来につなぐ人類の技』と題する一連の報告書として毎年継続して公刊しています。この間、2006年に研究を担当してきた応用技術研究室を近代文化遺産研究室と改称し、近代の文化遺産の保存修復に関する研究を重点的に行う意思表示をしたところです。近代の文化遺産の保護の基本的な考え方については、1995年に出された文化庁による「近代の文化遺産に関する調査研究協力者会議」の報告が、行政としての一定の方向性を示すものとされています。近代の文化遺産の文化財としての保護については、実務上は建造物の分野が先行して実施してきたところで、どちらかといえば従来その役割を一旦終えたものを遺産として評価し、保護のあり方として新たな用途を付加し、または他の施設や設備を付加して一体的に活用の道を探ってきた事例が多いといえます。また、土木構造物の場合は、隋道や橋梁、堰堤は現役としての機能を保ちながら、また、用途廃止した物件はモニュメントとして保存する事例が多かったということができます。ところが、2015年に「明治日本の産業革命遺産群」が世界文化遺産に登録されたのを機に、日本でも企業所有等の稼動施設の保護のあり方が問われるようになりました。現役施設の場合は、その生産ラインを含め常に技術革新によって変化する宿命を持っています。そのため、変化する物件に対しての保存や修復の理念を明らかにする必要が生まれています。そこで、今回は「近代文化遺産の保存理念と修復理念について」と題し、議論を深めていくことを目的としました。まず、基調講演としてロルフ・フーマン博士からは、産業遺産保護の先進国ドイツの事例をもとに文化遺産としてどのような対象を選定し、どのように保存しているのかについてご講演いただきました。また、事例発表として、専門分野の異なる3名の講師に発表をお願いしました。伊東孝博士からは、土木史の立場から国際的な産業遺産の保護の考え方等について、木村勉博士には建築史の立場から近代建築の事例分析から見た求められる理念について、鈴木淳博士には産業技術史の立場から富岡製糸場を事例に機械や設備、さらにはそれに関わった経営者や労働者の生活まで含めた包括的な保護の理念についてのお話をいただきました。今回の研究会で明らかとなった点も多く、有意義な研究会であったと評価していますが、積み残した課題も多いといえましょう。今後とも当研究所では多くの事例を積み上げながら、求められる理念と保護のあり方について研究を重ねて行きたいと考えています。平成29年3月31日独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所所長亀井伸雄はじめに1