ブックタイトル未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

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概要

未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

写真1ドイツのエッセンにある世界遺産、ツォルフェライン炭鉱業遺跡群バウハウスのデザインを取り入れた第12採掘坑写真2イベント用に整備された坑内路面ただしレールは残されているも、ようやく検討の緒についた段階である。技術革新などで工場のシステム自体も変わっており、復元すること自体が現実的ではない。産業施設を閉鎖した段階の状態から出発することになる。で、どうするか。ここでは、事例を通して考えてみたい。保存修復理念を世界的にみると、大きく二つに分けられる。操業当時の状態(最終形)を保存しているのは、アメリカとかイギリス、オーストラリアなどの英語圏が多いようだ。何人かの専門家に聞いた結論として、操業当時を保存している国は、特にアメリカ、オーストラリアであり、それを可能にしているのは土地が広いからだといわれる。ドイツの場合は、プロセスを大切にし、基本的にはプロセス復元をめざしているという。しかもいろいろ手の加えられたものを見ると、美しく見せよう、という意図も感じる。時には芸術的と思うときもある。(1)事例1:ツォルフェライン(ドイツ)ツォルフェラインの正面ゲートに位置するこれらの事務所棟はバウハウスの設計であり、工場施設についてもバウハウスの関与が感じられ、「世界中でもっとも美しい炭鉱」といわれる(写真1)。立坑櫓を施設のシンボルに取り込んで、デザインしている。展示施設のメインの建物であるルール博物館には上階までいく大きなエスカレーターがある。ビジターのことを考えて設置したのかも知れないが、専門家の評判はよくない。写真2は敷地内の様子で、路面はイベントなどができるように全面的に整備してしまったが、レールは残し、敷地内の輸送システムを残しながらうまくデザインしている。部分的に整備したところでは樹木が育ちすぎ、雑草が生い茂っていた。広すぎて手入れが行き届かないようだ。訪問したのは2年前(2014年)。かつてのコークス工場では、第一次大戦からの100周年を記念した展覧会が最上階で行われていた。昨年(2015年)は東西ドイツ統一(Re-unification)25周年記念の展示が開催される予告も掲載されていた。コークス工場への誘導が楽しい。石炭が運ばれていたインクライン(傾斜鉄道)に乗って、地上から敷地や道路を超えて数百m離れたコークス工場の最上階に運ばれる。石炭を運んでいた運搬通路が現在は人を運ぶ。かつてどうだったのかは不明が、高所恐怖症の人への配慮なのか、現在はインクラインの周囲は囲われて外は見えないが、興味深い体験であった。屋上に出ると、施設の全体を展望できる。展示会場は、最上階から各階へ順に降りながら展示物を26