ブックタイトル未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

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概要

未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

ムになる。それをさらに細分化して、原料の生成過程に着目して検討することもできる。保存する場合は、工場や一地区の全てを保存できれば、それに越したことはない。利活用は、頭で考えるより、現場へ行って具体的にモノや作業風景をみた方が保存や利活用の知恵や案が出やすい。ある社長さんはたとえ話として、鉱山施設では埋蔵量を採り尽くした翌年ぐらいに関連施設の寿命が尽きると、施設としては、一番効率的で、最適設計なのだといわれた。埋蔵量と採掘年数に対応した施設や構造物ができれば一番経済合理的である。この意味では産業施設は永久的な構造物とは考えておらず、基本的には前述したように仮設構造物として考えていることになる。佐渡の鉱山施設などを見ると、トタン屋根などの施設もある。しかしそれが重要文化財の指定を受けると、重要文化財は永久保存が原則なので、この意味では論理矛盾を起こしていることになる。これに対し、土木構造物は永遠を目指す。明治になり、木橋に代わって鉄の橋やコンクリート橋が登場したとき、土木の世界では「永久橋梁」と呼んだことがあった。最近それを取り上げてあるTV番組が批判していた。「永久橋梁なんて言い方をするから、いつまでも長持ちすると間違えられるんだ。」永久橋梁という呼び方は、永遠にもつという意味ではなく、永遠にもってほしいという願いを込めて呼んだものと理解しているが、巷では永遠にもつと理解していたのだろうか。同じような表現では、万年塀という鉄筋コンクリート塀がある。木橋の20年に対し50~60年以上もつ鉄の橋やコンクリート橋は、より長持ちすることは確かである。今日では、幹線道路の重要な橋は維持管理をよくして200年橋梁をめざしている。以上、3つの遺産にみる保存・修復理念の相違を簡単に整理すると、次のようにいえる。建築は竣工時から美が大切な要素であるとともに、竣工当時が最も美しい。このことが、木造建築の修復理念になっていると考えられる。これに対して土木構造物は、永久構造物は理想ではあるが、用・強を重視して長期長持ちの構造物をめざしている。産業施設は一定期間の仮設構造物、ないしは生産システムであり、あたらしい技術を取り入れ、技術革新のようにシステム自体が変わることもある。この意味では産業施設は変化することが必然である。したがって産業遺産の保存や修復理念を考える場合も、このような変化のプロセスをわかるようにすることが大切といえる。そうでないと、産業施設の本質を見誤ることになる。以下では、海外事例をみながら、産業遺産の保存や修復理念について具体的に検討する。3.事例にみる産業遺産の保存・修復理念わが国では周知のように木造建築では、当初復元が原則である。では産業遺産はどうなっているのか。最近の動きを見ると、施設の閉山時にするか、最盛期にするかで迷っているようだ。ある産業がずっと継続していれば閉山することもないし、やめることもない。止めるのは、衰退してどうにもこうにも打つ手がなくなって止めるので、閉山時の没落した段階の状態が残ることになる。しかしビジターにとっては、没落時の状態をみて気持ちが落ち込むより、華のある最盛期を見る方が楽しいし、元気もでる。学術的研究的にいえば、産業遺産は変化するのが必然なので、変化のプロセスを知りたいと願う。建築遺産の場合、いままでは木造が多く、歴史的な蓄積も豊富なので当初復元が可能だが、産業遺産の場合は、最盛期を復元するのは現実的には無理である。文化財的な修理・復元近代文化遺産の保存理念と修復理念―産業遺産の利活用を通して25