ブックタイトル未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

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概要

未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

は機能、「強」は強さ、「美」は美しさであり、構造物はこの3つの要素を兼ね備えて、はじめてよい構造物といわれた。この用・強・美を指標とし、さらに建造物とシステムないしネットワークの指標を加えて、建築遺産と土木・産業遺産の相違を理念的に考えてみる(図1)。建築には、柱や梁という構造材があり、それに住まいの快適性や使いがって(機能)を考えて内装材が取り付けられ、外界からの遮蔽と保護なども考えられて外装材が付けられて、建物ができあがる。建築には、当初から用・強・美の統一が求められ、内部空間と外部空間の美も重要な要素になっている。これに対して土木構造物は、美も求められるが、戦後はどちらかというと機能(用)と構造(強)が重視されてきた。橋を例に考えるとわかり易いが、構造材はむき出しである。橋には内装材や外装材はない。建築と土木構造物の中間的な構造物である屋根付き橋があるが、これは例外である。土木構造物は構造材がむき出しで、風雨にさらされるので、存在条件は厳しい。したがって利活用を考えるとき、建物のように閉ざされた空間だと利活用は考え易いが、橋などの場合はそうはいかないので、利活用方法は限定される。産業遺産はどうか。工場などの上屋を例にとると、美は考慮の外になる。大切なのは、工場の中にある機械とか設備である。簡単にいえば、産業施設は内部の機械とか設備が重要であり、工場はそれらを保護するためにある。保護する必要がなければ野ざらしでもよい。工場建物は、仮設構造物でもかまわないいのである。生産システムに組み込まれている工場は、あたらしい技術を取り入れ、技術革新のようにシステム自体が大きく変わることもある。この意味では産業施設は変化することが必然といえる。こられの変化に対応するためにも、工場建物は仮設構造物の方がふさわしいことになる。システムやネットワークという点から、3つの遺産の相違を考えてみる。建築の場合は単体とみなせる。勿論建物自体の内部システムはあるが、ここではそれは考慮外である。これに対して土木遺産は、各土木構造物がシステムの一構成要素になっている。例えば橋。橋は道路や鉄道の一部である。また発電所も、ダムがあって水を貯め、取水塔から取水された水が水路を通って、発電所の上の貯水槽にためられて、一気に水を落として発電する。水はそこで放水されるが、発電された電気は送電網で送られる。発電所も発電システムやネットワークの中の一構成要素なのである。水道施設も同様に、ひとつのシステムを構成している。産業遺産も、範囲を広くしたり、狭くして、システムやネットワークを検討できる。単体の工場や一地区というゾーンをとってもひとつのシステ建築遺産土木遺産産業遺産用・強・美用・強・美用・強・美用・強・美建造物構造材+外装材、内装材構造材そのもの内部の機械類が重要で、工場施設は仮設構造物システムネットワーク単体地域・国土(ネットワーク、システム系)地域・地区内限定(システム系)図1建築遺産、土木遺産、産業遺産の相違24