ブックタイトル未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

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概要

未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

近代文化遺産の保存理念と修復理念-産業遺産の利活用を通して伊東孝産業考古学会会長1.問題の所在-「産業遺産」概念の曖昧性とダブリン原則の捉え方の提案「近代文化遺産=産業遺産」ととらえて、建築遺産と土木遺産、産業遺産について保存理念や修復理念を検討したい。産業遺産概念の最近の動向をみると、概念自体はまだ成熟しておらず、曖昧性があるといえる。また保存や修復などに関する用語の定義や理解も各界バラバラで整理されていない。(1)産業考古学会の「産業遺産」概念「産業遺産」概念について、私どもの産業考古学会(通称JIAS、Japan IndustrialArchaeology Society)では2000年から「産業遺産保存活用ガイドラインワーキング・グループ」(以下「WG」)をつくって、「産業遺産」概念や保存・修復の用語について検討してきた。というのは私どものメンバーの中に、世界(文化)遺産に登録された「明治日本の産業革命遺産」や暫定遺産(リスト入りをめざす遺産)に関わっている学者や研究者がおり、産業遺産の保存や利活用について意見交換したいという要望があり、WGを発足させた。その中で、産業遺産概念の検討と合わせ、日本では建築学会や土木学会など多くの学会があるが、保存や修復などの用語の定義や使い方が一般化しておらず、共通用語になっていない。そこでまず、用語の整理から始めようというのがWGのスタートであった。本稿は保存や修復の用語の検討については省略する。私ども産業考古学会が考えてきた産業遺産は、どちらかというと遺跡とか遺物、遺構など過去のものが中心で、稼働施設は対象にしていないことが判明した。ところが「明治日本の産業革命遺産」には稼働施設も重要な構成遺産に入っている。そこでWGが考えたのは、稼働施設を含むあたらしい用語として、「Heritage」の英語をカタカナにした「産業ヘリテッジ」の提案であった。これを産業考古学会の総会で問題提起した。ここには、学会内に議論を起こそうという狙いもあった。予想したように総会ではめずらしくカンカンガクガクの議論がおきた。学会では1985年から推薦産業遺産制度を制定し、毎年々々推薦するにふさわしい産業遺産を認定している。その中には1986年に認定した高島炭鉱遺跡や1994年認定の三池炭鉱関連施設もある。今日でこそ世界遺産に登録されたが、当時は、国はもちろんのこと自治体も文化財として注目していないころであった。稼働施設としては、制度を創設した1985年に石井閘門(石巻市)を、1996年には鳥上(とりがみ)木炭銑工場(奥出雲町)を認定している。このように稼働施設もすでに推薦産業遺産として認定しているので、あらためてあたらしい用語をつくる必要はなく、現状でよいという強い意見もあった。「産業ヘリテッジ」には反対意見が多かった。その後別途シンポジウムなども開催したりして、現在学会内では、用語の「産業遺産」はそのままで、「産業遺産」の定義を変えねばならないと考えている。産業遺産のマネジメント21