ブックタイトル未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

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概要

未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

アイン炭鉱は、1926年に最先端を行く世界最大の炭鉱となった(写真15)。石炭の選別、選炭、輸送に最新の技術を採用し、また、建物は近代様式において最先端のものであった。この2つの要素が、2001年に世界遺産に登録された大きな理由となったのである。このような産業遺産を公共のものとし、人々に親しんでもらい、政治的にも支持を得て、保存・修復のための資金を創出することは必要不可欠である。これらの点において、我々はかなりの成功を収めている。事例を1つ紹介したい。1990年に東西ドイツは統一され、2015年に統一25年目の記念の年を迎えた。ドイツ最大部数の新聞『ビルト』は、「誕生日おめでとう、ドイツ」の見出しを掲げた号外を発行し、無料で全世帯に配布した。表紙には、ドイツ国内にて訪れるべき25の場所の写真が掲載されており、ノイシュヴァンシュタイン城と共にツォルフェアアイン炭鉱も掲載されたのである。保存と修復の方針の議論では、製鉄所と鉱業施設の内部が保存されている建物の1つを紹介したい。この建物は、機械の収納、組み立てや修理に使用されるもので、私はこのような建物を大ホール、もしくは大型機械ビルと呼んでいる。ルール地方だけでも、約10棟の巨大なホールが保存されており、現在では、コンサートホール、美術館・博物館の展覧会会場、商品の展示会のような特別なイベントへの貸し出しなど、本来とは別の用途に活用されている。このような巨大なホールは、閉ざされた空間であり、外から内部を見ることができないため、自動車メーカーが極秘で発表会や新製品の走行を行うこともある。大ホールの事例の1つに、同じくルール地方のボーフムにあるセンタナリーホールがある(写真16)。このホールは、クルップ社の設立100年を記念し、パリ万国博覧会にて建造されたものである。万博終了後は解体され、現在地に輸送され、工場として使用するために再び組み立てられた。そして、3番目の用途となる現在では、インフラ機能を備えた新しい建物が増設されたコンサートホールとして使用されている。このようなホールはすべて、鉄骨骨組、柱、ルーフ桁がリベットで接合された、構造が類似する建物である。この種類の建物は、ドイツの工業地帯に普及しただけではなく、日本の八幡製鉄所にも導入された。八幡に現存するドイツ製の建物は、世界遺産登録の構成要素である。鋼材にはドイツのグーテホフヌンクスヒュッテ社のロールマークの刻印が見られる。写真15ツォルフェアアイン炭鉱写真16ボーフムのセンタナリーホール産業遺産のマネジメント17