ブックタイトル未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

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概要

未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

それでは、ヨーロッパのほかの国々の事例も紹介する。ルクセンブルクのベルヴァル製鉄所では2基の高炉が保存・修復されており、内部は改変されている(写真7)。こちらでは、高炉が含まれたプラントの再開発のコンペティションが行われ、再開発後は、高炉と同規模の銀行が建設されたが、私はこのアプローチが好ましいとは思わない。製鉄工程と2基の高炉の連結は完全に失われたため、高炉は新しく開発された地区にある彫刻作品のように感じられる。チェコ共和国にあるヴィートコヴィツェ製鉄所は、世界遺産の暫定リストに記載されているが、保存・修復計画が進展していない(写真8)。スペインのサグントには、高炉の遺跡が道路のロータリーの真ん中にある興味深い事例がある(写真9)。ご覧いただいたように、ヨーロッパでは、高炉を使用した製鉄についての詳細な記録が残っており、多数の高炉が保存され、修復や復元が行われている。しかし、人々には、製鉄とそれに続く製鋼の工程の違いを簡単には理解してもらえない。そして、保存するにはその規模が問題となるため、近代的な製鋼所は、まだモニュメントとして保存されていない。ドイツでは比較的小規模で、原鉄から圧延機までの全生産工程を示すプラントが1つのみ残されている。そこでは、特に鉄道のレールが生産されていた。このプラントは、バイエルン州にあるマックスヒュッテ製鋼所である。マックスは昔のバイエルン王の名前である。写真10では、高炉から製鋼過程、圧延機までの一連の生産工程を見ることができる。我々が記録を取ったマックスヒュッテ製鋼所は、景観公園および文化財に登録されている。12年間、さらに整備されることなく存続しているが、将来については何も決定されていない。私にとっては、マックスヒュッテ製鋼所が比較的小規模で稼働当時のままに機械と設備が揃い、製鉄・製鋼と精錬の全工程を示す文化遺産に携わる最後の機会になるかもしれないだろう。マックスヒュッテの比較的小さな転炉の鋼の容量は20トンである。しかし、次世代の製鋼所の転炉は200トンで、10倍のサイズと重さとなるため、保存することがほぼ不可能となる。第二次世界大戦後、オーストリアで発明された底吹転炉、いわゆるリンツ?ドナウ転炉法と共に、製鋼は大変な進展を遂げた。オーストリアにて、商業生産のために使用された最初のリンツ?ドナウ転炉は保存されており、製鋼所を経営する企業の駐車場に寂しく佇んでいる(写真写真11リンツ-ドナウ転炉写真12シーメンス-マルタン法の製鋼所産業遺産のマネジメント15