ブックタイトル未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

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概要

未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

ある。赤色の点のいくつかの場所は、アンカーポイントと呼ばれ、それぞれの産業遺産までの交通手段の情報などを提供する案内所となっている。我々は、このような工業地域や建物を公共の施設にし、どのように保全、修復するかということについて様々な事例を経験してきた。ドイツでは世論が非常に重要であり、我々もまた政治的支持が必要である。これは単純に費用の問題である。産業遺産の保存と修復が国民の支持を得るのであれば、政治家は予算を与える。ルール地方の産業遺産の保存と修復についての費用は明確ではないが、推測では「産業文化の道」の整備のために、過去35年間で10億ユーロ、日本円にして1,250億円が費やされたと言われている。この金額については、整備が35年の年月をかけて行われたものであることを考慮していただきたい。ドイツでの製鉄・製鋼業と、それらの産業遺産としての保存と修復において、もう一つ重要な事例を紹介する。フェルクリンゲンはドイツ南西部に位置する町である(写真4)。デュースブルク製鉄所と同様にフェルクリンゲン製鉄所は整備され、その保存された大型産業遺産は多くの人々が訪れる場所となった。そして、1994年にフェルクリンゲンは世界遺産に登録された。さて、次に紹介するルール地方のハッティンゲン製鉄所は、デュースブルク製鉄所とは対照的に、公園ではなく博物館として整備されたものである(写真5)。この製鉄所は、大型構造物をより長期的に維持するための最初の試みが行われた事例として、その修復・修理方針が特に重要視されている。高炉の骨組みは比較的新しく見えるが、1995年にサンドブラストでク写真6隙間腐食リーニングされ塗装された。ハッティンゲンでは、いくつかの基本的な修復処置が行われ、腐食防止の実績も残している。解体された高炉の鋼製シャフトは、現在でも直立したままである。1990年より、異なる保護コーティング剤を用いたシャフトの防腐テストが行われている。テストに使用したそれぞれのコーティング剤、塗料やオイルなどの詳細については述べないが、25年間のテストの記録により、我々はコーティング剤の選択においての情報を得ることができた。鉄骨構造物の維持は非常に困難であると考えられている。すでに言及したように、我々の主な問題は金属の腐食である。腐食の専門家は、「腐食は決して眠らない」「腐食は神からの贈り物であり、止めることはできないが、処置を施すことはできる」と言う。我々の経験では、現在では腐食が初期段階の鉄骨構造物の維持は、鉄鋼業界にてすでに発展し行われてきた継続的修理の概念を応用することができるため、それほど困難ではないと言えるだろう。最大の問題は複合構造物、そしてリベットやネジもしくは溶接で連結した部材からなる鉄骨構成材である(写真6)。いわゆる隙間腐食が構成部材の接合部分に発生し腐食生成物が生じるため、構成部材のずれ、リベットや溶接部分の損傷の原因となるからである。この問題は簡易な介入的処置では解決できないため、サ産業遺産のマネジメント13