ブックタイトル未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

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概要

未来につなぐ人類の技16 近代文化遺産の保存理念と修復理念

加悦SL広場は、京都府与謝野郡宮津町に位置し、大正14年に開業した加悦鉄道を始めとし、丹後ちりめんなど特産品を京阪神地区へ出荷するルートとして開拓された。その後、昭和14年に近くの大江山にニッケル鉱山が発見され、加悦駅から鉱山駅まで延伸され鉱土輸送にも供され活況を呈した。昭和20年の終戦とともにニッケル鉱土輸送は廃止され旅客輸送に専念することになるが、昭和60年に廃止される。旧鉱山駅跡に移転整備されたのが現在の加悦SL広場となる。現在は蒸気機関車6両(重文1両を含む)、内燃機関車5両、内燃動車4両、付随客車6両、その他車両6両などを保存展示している。運営は宮津海陸運株式会社が担当している。常勤で、メンテナンスを行う方が常駐し、日々車両のメンテナンスを実施されているが、問題は重文指定されている123号機関車である。未指定品については日々のメンテナンスの手が入るために、きれいに保存されているが123号機関車のみは重文指定されているために、迂闊に手を入れることができず、埃をかぶり汚れた状態になり、さらには車体の腐食も進んでいる状態である。これは、種々事情があってこうなっている訳だが、重文指定されているが故に現場で手を入れることができず、かえって放ったらかしになってしまっている一例である。さて、ここで本来の話に戻ると、保存するにあたり「オリジナルを極力残す」ことを主眼にしたために、日常のメンテナンスとしてどこまで手を入れて良いのか現場で判断できなかったというのがこの事態を招いた主因である。現場サイドでは、「オリジナルは守れ」と言われたことに従っている訳だが、そうして手をこまねいている間に、機関車本体の腐食が進み大事な機関車本体に腐食が原因の穴が開いてしまうという本末転倒した事態が起きている。2?5.新たな素材さて、これまでものを中心に話をしてきたが、次は合成樹脂について少しだけ話したい。合成樹脂は、1860年台にセルロイドが商業ベースに乗り、そのあとは多種多様な合成樹脂製品が生活の中に浸透してきた。文化財として保存されているものの中にも多量の合成樹脂製の各種部品が使われている。これらも当然保存の対象となるわけだが、現在のところ合成樹脂が劣化するのを止めるすべを持たないのが現状である。これらの樹脂は単に劣化していくだけであればまだ良いが、タチが悪いのは自分が劣化したのちに他のものにくっついて汚したりすることである。これらを保存するとなると今のままでは至難であり、早急に何か手を考えなければいけない状況である。3.理念との関わりこれまで、近代文化遺産の保存と修復に関して現場に立って見たときに問題となったことを列挙してみた。もちろん問題はこれだけではないし、新たな問題も発生していることだろうと思う。コンクリート造、鉄骨造及びレンガ造など、構造体として遺されているものに関して、それらの代表的な劣化事例はいずれも構造強度に関連しており、それらの存立に直結する事例で、そこを避けて通ることはできない。オリジナルを残そうとしたために、かえって構造物全体の強度を危険にさらしてしまう事態も容易に予想される。そのようなとき、どう対処するべきなのかはそれぞれの事例ごとに慎重に調査、検討した上で対処するべきと考える。これは直接理念に関わる問題ではないが、あまりにそこに捕らわれすぎてしまうととんでもない結果につながってしまう。近代文化遺産における保存理念と修復理念9