ブックタイトル近代テキスタイルの保存と修復

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概要

近代テキスタイルの保存と修復

去してケミカルキャビネットなどに保管するか、処分するべきである。4.4.保管作品は監視しやすいように分類して保管する。箱の外側には、作品の情報と写真を掲載したラベルと、内容物のリスクレベルを示す色分けラベルを貼付する。写真は、迅速な参照用として、そして劣化前と劣化後を比較するための基準として活用する。コレクションの管理責任者は、定期的(できれば3 ? 6ヵ月毎)に点検を行う必要がある。多くの美術館・博物館では、問題のある作品の劣化の進行を遅らせるために、酸素を透過させないセラミック被覆の透明バリアフィルムであるエスカルでできたバッグに作品を収納している。バッグから酸素を除去するために、バッグの中に作品と脱酸素剤を入れて密封する。ただしバッグを密封していてもゆるやかな空気漏れは防げないので、5年毎に交換するのが望ましい17)。CCIによれば、ゴムおよびプラスチックの作品は、低湿度で無酸素の冷暗所に保管するのが理想的である。保管場所の相対湿度は中度または低度に維持するのが望ましい。より低温度の環境では、化学的な劣化反応と進行を遅らせることができ、素材の寿命が延びる。多くの美術館・博物館では、問題のある素材の保管用に霜取り不要の冷蔵庫または冷凍庫を購入している。?20℃以下の温度環境では、劣化の進行が遅くなる。プラスチックおよびゴムの作品を保管するために冷蔵保管室を導入している施設もあるが、これは予算に限りのある館にとって非常に費用の負担が大きい選択肢になる。ただし、ポリ塩化ビニルや劣化した硝酸セルロースは冷凍保管してはいけない18)。何年も前から、劣化を誘発するガスや分解を促進するガスを吸収するために、活性炭、シリカゲル、ゼオライトなどの吸着剤が使用されている。また、劣化の進行を遅らせるために、エージレスR(Ageless R)などの脱酸素剤が使われている。デンマーク国立博物館(NationalMuseum of Denmark)のイヴォンヌ・シャショウア主任研究員(Yvonne Shashoua)によると、ゼオライトと活性炭は揮発性ガスの吸収に適しているが、可塑剤の流動化を促す物質の吸収にはあまり有効ではない。化学分解を起こす物質や酸性ガスを除去してプラスチックの劣化速度を遅らせることを目的とした吸着剤の有効性を評価する研究を行う必要がある19)。ポリ塩化ビニルは、タイベックR(Tyvek R)やポリエチレン製のバッグまたはフォームで包装してはいけない。これらの素材は、作品に含まれるフタル酸エステル系可塑剤を吸収して劣化の加速を招くためである。可塑剤の移動やゴムの劣化のために表面が粘性を帯びている作品は、他の物品への粘着を防ぐために隔離する必要がある。間紙や衣服の保管袋には、粘性のないテフロンR(Teflon R)コート紙またはシリコーン剥離紙を用いる。また、マイラーTM(Mylar?)も可塑剤を吸収しない素材である20)。結論合成素材を使った収蔵品の調査を行うことで、問題の大きさを把握することができる。また、光度を抑制し、相対湿度と温度を一定に維持すれば、劣化の進行を遅らせることができる。光はプラスチックやゴムの劣化を加速させるため、光に反応しやすい作品については展示や貸出方針を再検討する必要がある。プラスチックやゴムの作品については、慎重に評価を行い、劣化の徴候がないかを確認するべきである。劣化の徴候としては、変色のほか、揮発性物質の放出を意味する異臭が考えられる。テキスタイル作品は、これまで必ずしも理想的ではない条件下で保管されてきた可能性68