ブックタイトル近代テキスタイルの保存と修復

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概要

近代テキスタイルの保存と修復

の電池の交換や、服飾というよりもシャワーカーテンに多用される素材であるビニールのガウンのクリーニングを行っていることに気付いたのである。多くのコンサヴァターは、伝統的な生地と製作技法に精通しており、従来の服飾作品のための様々な処置方法は習得している。しかし我々は、ティエリー・ミュグレー(ThierryMugler)のデザインによるファイバーグラスのバイク型コルセットの亀裂やアレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)による剥離したバルサ材の一対の翼、立野浩二による生花が埋め込まれた未加硫ラテックスゴムの衣服などの保存修復という難題に遭遇することとなった。また、なかにはデザインのコンセプトの一部として意図的に生地を劣化させるデザイナーもいた。こうした作品の多くは、ファッションショーや写真撮影、そして必ずしも万全ではないファッションアーカイヴズでの保管など、過酷な状況に耐えてきた。当然ながら、このような衣服には取扱表示ラベルがないのである。しかも、このような作品を展示するにあたっては、マネキンに着用させる際の物理的負荷や、取り扱いの難しさといった問題に直面した。衣服をフィットさせるために、マネキンの大幅な調整が必要になることも少なくなかった。また、硬質プラスチックやゴムは柔軟性に欠けるため、モデルが着用する場合は、モデル自身が様々な体位をとって素材に適応させることができるが、マネキンではそうはいかない。そのため、マネキンの形状を変え、エサフォームRのように丈夫で化学的に安定した素材を用い、衣服にダメージを与えることなく創意を凝らして適切な支持体を確保する必要があった。我々は、木材、金属、皮革、紙などを専門とするコンサヴァターと共に、このような馴染みのない素材の特性や作業性を知るために、様々な素材の処置方法を検討した。また、多様な素材を用い、大型で特殊な形状の作品の保管にも苦労した。なぜなら、作品をどのように維持し、既に過密状態の収蔵庫にどのように保管するのかを決定する際に問題が生じたからである。展示に貸し入れる作品は、「ロックスタイル」、「スーパーヒーローズ」、「アレキサンダー・マックイーン」など、現代のテーマのものが多くなり、それに伴い我々はゴム、ポリ塩化ビニル、ポリウレタンなどの不安定な素材に写真2ジョーンズによる帽子2写真3ジョーンズによる帽子3衣装コレクションにおける現代の素材61