ブックタイトル近代テキスタイルの保存と修復

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概要

近代テキスタイルの保存と修復

?どのクリーニングの方法を適用するのか。?損傷がある場合、どのような介入的支持・補強方法が必要か。?作品をどのように展示するべきか。テキスタイルで被覆したボードに平らに広げるか、ローラーや特注の支持具に吊るすか、マネキンなどを使用するか。?展示ケース内に展示するべきか。展示ケースの外に展示するか。?移動の際の安全を確保するため、どのように梱包するべきか。■損傷の原因テキスタイルの損傷の原因を以下に整理する。劣化と損傷はこれらの原因のいずれか、または組み合わせにより発生し、光、温度と湿度が不適切な環境要因によって悪化することがある。?化学的要因─素材(物質)の分子レベルでの分解?物理的要因─摩耗、擦過、物理的損傷?生物学的要因─害虫や細菌による損傷■介入的処置─クリーニングヨーロッパおよびアメリカの安全衛生法は、たびたび改定の対象となるため、試験が行われ、長期的に使用された化学薬品や溶剤が入手不可能となることがある。そのため、シンペロニックR N(Synperonic R Nノニルフェノール凝縮体と酸化エチレンの溶液であり、テキスタイルのクリーニング用の非イオン系洗剤として使用)の使用禁止案が出された当時から、我々は、適正な保存修復処置手順に従い、現行のクリーニング方法の再評価を行っている。この過去10年にわたるクリーニング方法、および適切な(現在使用されている)洗剤についての調査は成果をもたらしており、様々な試験が続けられている4)。現在、V&Aにおけるテキスタイルのクリーニングは、通常、専用洗浄台でpH 5.6の脱イオン水を使用して行われる。タンパク繊維には、土壌懸濁液(カルボキシメチルセルロースナトリウム以下SCMC)を添加した非イオン系洗剤を使用する。また、現在、V&Aで試験中の洗剤はディハイポンR LS45(Dehypon RLS45)である5)。セルロース繊維の場合には、脱イオン水とアニオン系洗剤を用いる。現在、V&Aで使用している洗剤は、ホスタポンR TPHC(Hostapon RTPHC)である。この洗剤を使用する場合、SCMCは不要となるが、pH 6.5の弱酸性であるため、軟水、または軟水と脱イオン水の混合液を用いる。それは、溶液のpHが高いほど汚れが落ちやすいことが分かっているためである。また、この洗剤の利点は、洗浄槽の温度を30℃程度まで上昇させても使用できるので、しつこい汚れを洗浄しやすいことである。V&Aの洗浄テーブルは、ウィラード・コンサヴェイション・イクイップメント・エンジニアズ(Willard Conservation Equipment Engineers)が製作したもので、底板の下に加熱設備が備わっている6)。欠損部のステッチ、補強、充填、補整テキスタイルの補強(表打ち・裏打ちなど)に使用する素材は、その素材の質が対象とする作品にきちんと適合するかを考慮しながら慎重に選ぶ必要がある。具体的には、柔軟性、寸法安定性(ドレープ、手触りや弾力性など)、不透明もしくは透明か、重量、および厚みを考慮する。特に処置後に、補強部分や補強に使用した素材が見える場合には、美観上、色調の一致が重要であり、そして織り方は作品の生地と同等であることが望ましい。ステッチ方法もまた重要となり、通常はコーチングステッチを採用する。欠損が広範囲にわたる場合、欠損部分の充40