本作品中で、白色は二羽の鳥の腹部(12,16)に見られるだけである。Caだけしか検出されておらず、胡粉が使われていると判断できる。画面全体を覆う赤色の葉からはほとんどの箇所でHgとともにPbが検出された。この作品に描かれている紅葉の葉の多くには裏彩色が施され、表面の色と裏面の色の重ね合わせによって、さまざまな色が描き出されている。ただし、濃い赤色として描かれている落款左の一葉(24)についてはHgだけしか検出されず、この葉には裏彩色もない。一方、暗赤色として描かれている葉脈は赤色染料による着色である。橙~茶色に見える葉についてもすべて、HgないしはHg+Pbによる着色であり、Fe系材料による黄色や茶色の着色箇所は見られない。鳥の黒目周囲(11)に黄色を確認することができるが、これは染料による着色である。緑色材料としては3種類が見出された。樹木の苔(08)や画面下方の草(30)に見られる明緑色部分からはCuとともにAs、Znが同時に検出されたが、樹木の枝(18)などに見られる黒緑色部分からはCuだけしか検出されなかった。さらに、画面下方に描かれている地面(29)や草の周囲には緑色染料が薄く使われている。鮮やかな青色が鳥の羽根(14)に使われており、画面下方の岩肌(28)にも青色を確認することができる。これらの部分からはCuが検出されており、群青が使われていることがわかる。(早川泰弘)

分析装置:セイコーインスツルメンツ(株)SEA200、X線管球:Ph(ロジウム)、管電圧・管電流:50kV・100μA、X線照射径:φ2mm、測定時間:1ポイント100秒、装置先端から資料までの距離:約10mm

表面

紅葉小禽図表面分析ポイント
蛍光X線強度(cps)
No. 測定箇所 カルシウム
Ca-Kα

Fe-Kα

Cu-Kα
亜鉛
Zn-Kα
ヒ素
As-Kα

Au-Lβ
水銀
Hg-Lβ

Pb-Lβ
01 紅葉 薄赤 25.4 12.9 23.6
02 紅葉 3.7 73.3 34.0
03 紅葉 41.2 9.3 12.6
04 紅葉 赤黄 30.0 8.1 13.2
05 紅葉 10.3 77.7
06 木の幹 40.7 12.2 20.9
07 木の幹 薄緑 39.0 27.2
08 明緑 19.8 8.5 245.9 23.6 9.1
09 葉脈の中心 31.3 15.1 17.3
10 鳥の頭部 12.9 13.4 528.2
11 鳥の目 黄/黒 53.7 14.0 13.3
12 鳥の羽根 106.7
13 紅葉輪郭 赤橙 0.1 3.2 94.2 44.0
14 鳥の羽根 16.2 6.3 305.3
15 鳥の羽根 喉部 42.5 2.7
16 鳥の羽根腹部 154.0
17 鳥の目 黄/黒 63.9 5.3 179.8
18 黒緑 37.7 2.5 52.2 4.6 2.7
19 紅葉 薄赤 21.4 48.9
20 紅葉 灰赤 27.0 27.5
21 紅葉 輪郭 赤橙 0.1 109.7 23.2
22 紅葉 赤橙 8.0 80.6 37.6
23 紅葉 灰赤 17.6 47.2
24 紅葉 28.6 24.8
25 落款 43.0 22.5
26 背景 薄茶 53.0
27 背景 薄茶 53.4
28 岩肌 19.7 5.0 427.5
29 地面 薄緑 46.3
30 草の葉 明緑 13.0 19.3 537.2 54.0 22.7
31 草の周囲 深緑 48.4 0.2 68.6

 

裏面

紅葉小禽図裏面分析ポイント

宮内庁三の丸尚蔵館(当時)提供

蛍光X線強度(cps)
No. 測定箇所 カルシウム
Ca-Kα

Fe-Kα

Cu-Kα
亜鉛
Zn-Kα
ヒ素
As-Kα

Au-Lβ
水銀
Hg-Lβ

Pb-Lβ
01 紅葉 13.6 65.0 6.4
02 紅葉 赤黄 24.2 19.7 6.9
03 鳥の腹部 37.9
04 葉脈の中心 22.426 16.6 7.2
05 紅葉 赤茶 4.7 21.1
06 紅葉 薄茶 7.6 11.1
07 下端の地 薄緑 6.4
08 6.9 270.6
09 鳥の背部 19.8 6.4 371.2
10 鳥の喉部 9.0
11 落款 4.4 11.5
12 紅葉(表のみ彩色) 5.0 11.3
13 紅葉(裏から彩色) 1.5 36.0 22.4
14 木の幹 10.3 13.6 0.1
15 紅葉(裏のみ認識) 赤黄 29.6 32.9 40.2
16 紅葉 赤黄 18.4 23.1 6.6