白色の菊の花(02)はCaを主成分とする胡粉で描かれている。白色の菊の花の中心部(01)には下層に緑色の着色がなされている。花の中心部にのみ緑色顔料が使われ、白い花全体に薄く見られる緑色のぼかし(06)には緑色の有機染料が使われている。この白い花の中心部に使われている緑色顔料および画面右上方から中央付近にかけて描かれている茎に見られる葉の葉脈(12)の緑色はCuを主成分とする緑青によって描かれている。しかし、岩肌を描くために使われている緑色材料(16,17)はCuにAs+Znを含んだ材料である。流水については、輪郭が濃青、内側が薄青色で描かれているが、輪郭部(04,23)にのみCu主成分の顔料(群青)が使われ、内部の薄青部分(19)はすべて染料によって描かれている。赤色部分は画面中央左側(13)および左下方の花びら輪郭に確認できるだけであるが、これらは有機染料による着色である。黄色についても、画面中央付近の花びらの輪郭(18)に見られるだけであるが、これも染料である。岩肌の茶色部分(22)にはFe系の茶色材料(代赭)が使われている。
この作品は図案化された水流など、他の作品とはやや異なる作風を感じるものであるが、この絵を詳細に観察すると、緑色の葉脈が葉からはみ出して描かれている部分や、鳥の足が身体から離れて描かれている部分があるなど、他の作品とはやや描写が異なる部分があることも事実である。(早川泰弘)
分析装置:セイコーインスツルメンツ(株)SEA200、X線管球:Ph(ロジウム)、管電圧・管電流:50kV・100μA、X線照射径:φ2mm、測定時間:1ポイント100秒、装置先端から資料までの距離:約10mm
表面
蛍光X線強度(cps) | ||||||||||
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No. | 測定箇所 | 色 | カルシウム Ca-Kα |
鉄 Fe-Kα |
銅 Cu-Kα |
亜鉛 Zn-Kα |
ヒ素 As-Kα |
金 Au-Lβ |
水銀 Hg-Lβ |
鉛 Pb-Lβ |
01 | 菊の花の中心 | 緑 | 67.3 | 10.5 | ||||||
02 | 菊の花の地 | 薄緑 | 49.6 | |||||||
03 | 流水の地 | 薄青 | 33.3 | |||||||
04 | 流水 | 青 | 29.7 | 57.8 | ||||||
05 | 落款 | 赤 | 31.1 | 28.4 | ||||||
06 | 菊の花の地 | 薄緑 | 91.1 | |||||||
07 | 絹地 | 薄茶 | 49.4 | |||||||
08 | 葉脈 | 緑 | 12.1 | 9.4 | 449.9 | |||||
09 | 葉 | 濃緑 | 35.4 | |||||||
10 | 葉の丸穴 | 暗茶 | 38.7 | 8.1 | ||||||
11 | 菊の小花の中心 | 薄青 | 120.1 | |||||||
12 | 葉脈 | 緑 | 14.2 | 6.5 | 239.1 | |||||
13 | 花びら輪郭 | 赤 | 62.3 | |||||||
14 | 鳥の身体 | 茶 | 42.9 | 4.9 | ||||||
15 | 岩肌 | 青 | 20.3 | 6.1 | 413.7 | |||||
16 | 岩肌 | 緑 | 5.5 | 10.6 | 821.0 | 32.9 | 17.9 | |||
17 | 岩肌 | 薄緑 | 30.1 | 8.3 | 287.1 | 13.3 | 8.7 | |||
18 | 菊の花びら | 黄 | 70.5 | |||||||
19 | 流水の中心部 | 薄青 | 51.2 | |||||||
20 | 岩肌 | 白青 | 19.0 | 1056.8 | ||||||
21 | 岩肌 | 青 | 12.5 | 893.5 | ||||||
22 | 岩肌 | 茶 | 34.3 | 24.0 | 3.8 | |||||
23 | 流水の縁 | 青 | 23.4 | 89.3 |