白色はCaを主成分とする胡粉で描かれている。画面中央の大きな貝の内部の赤色(11)、画面左下の赤茶色の貝(33)などはHg系赤色顔料(辰砂)によって描かれている。赤色としてはこれ以外に赤色染料も使われており、両者の違いは目視でも確認可能である。画面中央の薄桃色の貝(20)は胡粉の上に赤色染料が塗られている。黄色や茶色も多くの箇所で見ることができるが(10,16,17,23,27,28など)、すべてFe系の黄色あるいは茶色材料(黄土や代赭)による着色である。緑色が使われている箇所は少なく、緑色顔料は見出されなかった。『動植綵絵』30幅の中でも緑色顔料が確認できなかったのは、この作品と7「大鶏雌雄図」の2幅のみである。緑色染料は青色水流の輪郭(03)にわずかに使われていることが確認された。水流の青色部分(04,35)からはCuが大量に検出され、群青が使われている。画面右下に描かれている暗青色の岩(34)では、群青の下層に墨が塗られている。灰色の珊瑚(18)や画面中央の岩(24)からはCa以外の元素は検出されず、墨あるいは薄墨による着色であると思われる。(早川泰弘)

分析装置:セイコーインスツルメンツ(株)SEA200、X線管球:Ph(ロジウム)、管電圧・管電流:50kV・100μA、X線照射径:φ2mm、測定時間:1ポイント100秒、装置先端から資料までの距離:約10mm

表面

貝甲図表面分析ポイント
蛍光X線強度(cps)
No. 測定箇所 カルシウム
Ca-Kα

Fe-Kα

Cu-Kα
亜鉛
Zn-Kα
ヒ素
As-Kα

Au-Lβ
水銀
Hg-Lβ

Pb-Lβ
01 49.3 33.7
02 薄茶 45.2 6.3 9.0
03 水辺輪郭 深緑 27.4 32.8
04 9.1 6.1 473.2
05 薄青/薄赤 58.5 74.8
06 102.1 1.8
07 20.4 29.8
08 灰/黒 27.3 3.3
09 薄赤 45.8 2.3
10 87.8 22.0
11 薄赤 75.5 31.3
12 67.8 9.1
13 水草 深緑 22.4
14 落款 17.2 41.4
15 絹地 薄茶 32.7
16 55.7 25.9
17 明茶 92.4 11.0
18 珊瑚 69.9
19 暗赤 54.6 12.7
20 112.7
21 31.0 2.1 23.7
22 青/赤 67.3 86.5
23 88.1 25.9
24 75.3
25 波の輪郭線 薄茶 92.5 2.5
26 青茶 23.9 2.4 171.2
27 166.5 10.1
28 168.5 5.8
29 薄赤 106.8 18.0
30 10.1 60.6
31 126.0 16.6
32 薄赤 66.2 25.7
33 暗赤 73.6 25.0
34 暗青 24.4 4.2 229.4
35 9.8 4.6 471.5