鵞鳥の羽根(06)の白色はすべてCaを主成分とした胡粉によるものである。白い羽根の部分には金(金茶)色が透けるように見えるが(07)、他の作品と同様、この部分からAuはまったく検出されない。検出されるのはCaとFeだけである。黄土あるいは代赭などの裏彩色と、表面での胡粉の丁寧な線描きを利用した表現が使われている。この作品中にAuはまったく使われていない。鵞鳥の黒目周囲(02)の黄色あるいは足の茶色部分(09)からもFeが検出され、黄土や代赭による表現が行われている。一方、鵞鳥のくちばしの黄色部分(04,05)からFeはほとんど検出されない。この部分から検出されるのはCaだけであり、胡粉の上に黄色染料による着色が行われていることがわかる。本作品中で赤色が使われている箇所は少なく、黒目の周囲(03)あるいはくちばしの一部(05)にわずかに認められる程度である。これらの箇所からはHgは検出されず、赤色の染料による着色が行われている。この作品中でHgが検出されたのは落款だけである。緑色が使われている箇所も決して多くないが、地面に描かれている苔(08)に使われている。これらの部分からは、Cuとともに少量のAsが検出された。青色が認められる箇所は、この作品中には見出されない。鵞鳥の黒目(01)からはFeが少量検出されている。(早川泰弘)
分析装置:セイコーインスツルメンツ(株)SEA200、X線管球:Ph(ロジウム)、管電圧・管電流:50kV・100μA、X線照射径:φ2mm、測定時間:1ポイント100秒、装置先端から資料までの距離:約10mm