鸚鵡の白い羽根(01,03)はすべてCaを主成分とする胡粉によって描かれている。鸚鵡の羽根(04,10,11,12)には金(金茶)色が透けるよう描かれているが、この部分からAuはまったく検出されず、Caと少量のFeが検出されただけである。黄土あるいは代赭などの裏彩色と、表面での胡粉の丁寧な線描きを利用した表現である。この金茶色に見える羽根を肉眼で詳細に観察すると、この作品については、この部分の色彩が金色ではなく黄色に近い色であることがわかる。この作品の中にはAuが検出される箇所がある。画面左上方に描かれている緑色の鳥の尾羽の骨(19,20)の表現に金泥が使われている。『動植綵絵』30幅の中で、Auが検出される作品はこの作品と9「老松孔雀図」の2幅だけである。ただし、鳥の羽根の金(金茶)色が透けるように見える部分からAuが検出される作品は一つもない。鸚鵡の黒目周囲の黄色(05)あるいは枝などの茶色部分はFeを主成分とした黄土や代赭による表現である。ただし、二羽の鸚鵡の頭部の羽根に見られる黄色部分(02,10)からはわずかではあるがPbが検出された。高精細画像を詳細に確認すると、橙色の粒子が点在していることが確認でき、4「秋塘群雀図」、17「蓮池遊魚図」にみられるPb系橙色顔料(鉛丹)をわずかに刷く表現と同じであると考えられる。橙色が濃く認識される部分ほど粒子数が多いことも確認され、この粒子は鉛丹である可能性が高い。赤色材料としては緑色の鳥の羽根の一部(16,17)あるいはくちばし(18)に使われているのはHgを主成分とする辰砂である。しかし、白い羽根の鸚鵡の黒目周囲の赤色部(06)からはHgはまったく検出されず、赤色染料が使われている。緑色材料については、2種類の材料が使われている。一つは緑色の鳥の羽根(15)に使われているCuを主成分とし、Asを少量含む顔料である。もう一つは松葉の表現(13)に使われている深緑色で、ここには緑色染料が使われている。青色は緑色の鳥の尾羽(19)に使われており、Cuが大量に検出される群青が使われている。鸚鵡の黒目(07)からはFeが比較的多く検出され、黒漆が使われている可能性がある。(早川泰弘)

分析装置:セイコーインスツルメンツ(株)SEA200、X線管球:Ph(ロジウム)、管電圧・管電流:50kV・100μA、X線照射径:φ2mm、測定時間:1ポイント100秒、装置先端から資料までの距離:約10mm

表面

老松鸚鵡図表面分析ポイント
蛍光X線強度(cps)
No. 測定箇所 カルシウム
Ca-Kα

Fe-Kα

Cu-Kα
亜鉛
Zn-Kα
ヒ素
As-Kα

Au-Lβ
水銀
Hg-Lβ

Pb-Lβ
01 鶏冠 148.4
02 鶏冠 76.7 6.9
03 頭部 目の横 139.6
04 頭部 後ろの羽 白黄 107.5 4.1
05 目の周囲 115.3 55.4
06 目の周囲 79.2 22.6
07 目の中心 38.7 41.4
08 右の鸚鵡 目の周囲 99.3 40.1
09 142.8
10 右の鸚鵡 鶏冠 83.8 0.2 4.2
11 背の羽 112.3 1.3
12 背の羽 白茶 113.5 5.4
13 松葉の周囲 59.8
14 松の枝 21.9 8.8 359.2 6.0
15 緑の鳥の身体 2.8 17.8 861.0 36.9
16 緑の鳥の身体 27.8 1.3 14.8 61.8
17 緑の鳥の身体 47.3 1.3 13.5 50.4
18 緑の鳥 嘴 薄赤 97.6 1.8 5.1 6.1
19 緑の鳥 尾羽 12.4 34.3 615.1 5.9
20 緑の鳥 尾羽の金線 26.8 1.4 21.0 48.3
21 落款 48.0 1.2 9.3
22 絹地 62.1