白い羽根(10)に使われているのはCaを主成分とする胡粉である。この作品にも金(金茶色)が透けるように見える羽根の表現(18,21)が見られるが、Auは一切検出されず、Caと少量のFeが検出されただけである。黄色い足(17,32)やくちばし(12,23)から検出された元素もCaとFeだけであるが、これらの部分では白色顔料が塗られた上に黄土などFeを主成分とした黄色顔料が着色されている。鶏冠の赤色(08,09)はHgを主成分とした辰砂によって描かれている。赤色の鶏冠の中に多数描かれている点描は赤色染料によるものであるが、本作品中で使われている染料はこれだけで、他の着色はすべて顔料によるものである。緑色は画面左中央から下方にかけて描かれている草(33,34)に見られるが、これらの部分からはCuとともにAsが検出された。緑色材料として検出されたのはこの材料1種類だけである。灰色から黒色の羽根の部分からは少量のCaが検出されているが(04,19,28,30,31)、裏彩色および表面に薄く塗られている胡粉に由来するものである。目の黒色部分に黒漆は使われていないと判断できる。(早川泰弘)

分析装置:セイコーインスツルメンツ(株)SEA200、X線管球:Ph(ロジウム)、管電圧・管電流:50kV・100μA、X線照射径:φ2mm、測定時間:1ポイント100秒、装置先端から資料までの距離:約10mm

表面

群鶏図表面分析ポイント
蛍光X線強度(cps)
No. 測定箇所 カルシウム
Ca-Kα

Fe-Kα

Cu-Kα
亜鉛
Zn-Kα
ヒ素
As-Kα

Au-Lβ
水銀
Hg-Lβ

Pb-Lβ
01 鶏冠 6.4 102.0
02 くちばし 160.4 6.3
03 70.0 28.3
04 目の周囲 45.4
05 鶏の尾羽 濃茶 56.5 15.4
06 鶏の尾羽 赤茶 46.0 21.6 17.3
07 落款 30.9 18.5
08 鶏冠 6.0 1.6 85.1
09 鶏冠 1.9 124.3
10 羽根 170.8
11 羽根 白/黄 83.9 10.0
12 くちばし 145.4 4.4
13 絹地 薄緑 48.6 2.3
14 羽根 赤黒 43.1 22.3
15 羽根 薄赤 80.7 21.8
16 羽根 赤茶 48.9 38.8
17 180.1 4.3
18 羽根 金茶 96.3 22.3
19 羽根 49.2
20 羽根 赤茶 60.6 28.6
21 羽根 金茶 52.4 6.1
22 羽根 81.1
23 くちばし 153.7 3.3
24 鶏冠 0.2 91.6
25 51.7 21.7
26 目の周囲 40.6 15.4
27 羽根 52.5 31.4
28 羽根 67.4
29 羽根 金茶 53.8 9.7
30 羽根 37.5 5.6
31 羽根(盛上がり) 103.2
32 155.5 7.2
33 11.5 13.4 495.9 5.0
34 22.4 6.9 285.4 3.8

 

裏面

群鶏図裏面分析ポイント

宮内庁三の丸尚蔵館(当時)提供

蛍光X線強度(cps)
No. 測定箇所 カルシウム
Ca-Kα

Fe-Kα

Cu-Kα
亜鉛
Zn-Kα
ヒ素
As-Kα

Au-Lβ
水銀
Hg-Lβ

Pb-Lβ
01 鶏 身体(表は白色) 74.4 16.8
02 鶏 尾羽(表は白色) 54.3 10.3
03 薄緑 5.4
04 鶏 羽(表は白色) 赤茶 96.1 13.6
05 鶏冠 内側 4.7 95.8
06 鶏冠 外側 濃赤 4.6 81.4
07 鶏の足(表のみ彩色) 84.0 16.0
08 116.2 13.2
09 細かい草(表のみ彩色) 7.6 10.1 315.2 0.2
10 子鶏の羽 赤茶 50.1 12.9
11 尾羽先端(表は黒色) 赤茶 17.0 7.8
12 落款 4.8 8.6