鶴の首(17)や梅の花びら(09)に使われている白色材料はCaを主成分とする胡粉である。金(金茶色)が透けるように見える鶴の羽根部分(18,25)からはAuは一切検出されず、Caと少量のFeが検出されただけである。Feを主成分とする黄土あるいは代赭などの裏彩色と、表面での胡粉の丁寧な線描や薄塗りを利用した描写である。鶴の黒目周囲の黄色部分(02)からはCaとともにFeが検出され、黄土などのFe系材料が使われているが、花の蘂の黄色部分(12,13,14,15,27,35)からはFeが検出されず、胡粉による盛上げを行った上に黄色染料による着色が行われている。鶴の頭部の赤色(01,16)はHgを主成分とする辰砂によって描かれているが、花や蕾の萼(11,26)に見られる暗赤色からはHgは全く検出されず、ベンガラなどのFe系赤色顔料によって描かれている。さらに、花びらに見られる薄赤色部分(10)は赤色染料による着色であり、赤色材料として3種類の材料が使い分けられている。萼や蘂の表現について、梅花が描かれた他の作品と比較すると、2「梅花小禽図」では萼には赤色染料が使われ、8「梅花皓月図」では蘂の黄色にAs系の石黄が使われているなどの違いがある。一方、18「桃花小禽図」では本作品と同じように、萼にはベンガラなどのFe系赤色顔料が使われている。樹木の苔(08)、岩肌(28)などに見られる緑色部分からはCuとともにAsが検出されている。黒っぽく見える岩肌部分(29,30)には青色を確認することができ、Cuを主成分とした群青による着色が行われている。鶴のくちばし(03)、足(32)などの黒色部分からはCaのみが検出されており、墨あるいは薄墨による着色であると思われる。(早川泰弘)

分析装置:セイコーインスツルメンツ(株)SEA200、X線管球:Ph(ロジウム)、管電圧・管電流:50kV・100μA、X線照射径:φ2mm、測定時間:1ポイント100秒、装置先端から資料までの距離:約10mm

表面

梅花群鶴図表面分析ポイント
蛍光X線強度(cps)
No. 測定箇所 カルシウム
Ca-Kα

Fe-Kα

Cu-Kα
亜鉛
Zn-Kα
ヒ素
As-Kα

Au-Lβ
水銀
Hg-Lβ

Pb-Lβ
01 鶴の頭 17.4 31.4
02 鶴の目 76.2 38.4
03 鶴のくちばし 28.9
04 黒緑 12.2 4.4 197.2 2.7
05 35.6 24.0 45.2
06 深緑 26.5 3.5 96.7 0.3
07 落款 18.0 49.0
08 幹の苔 5.8 11.7 516.6 7.0
09 梅の花びら 107.9
10 梅の花びら 薄赤 77.0
11 蕾の萼 暗赤 34.1 47.0
12 197.9
13 120.7
14 133.9
15 87.3
16 鶴の頭 18.3 26.1
17 鶴の首 139.7
18 鶴の羽根 白(黄色地) 78.2 4.0
19 鶴の羽根 52.5
20 鶴の目 60.4 23.3
21 鶴の羽根 31.6
22 絹地 薄茶 34.7
23 黒い羽根の骨 120.5
24 黒い羽根 31.7
25 鶴の羽根 白(黄色地) 82.5 4.5
26 蕾の萼 暗赤 33.2 38.0
27 64.1
28 岩肌 6.1 649.1 10.3
29 岩肌 6.0 7.6 608.2
30 岩肌 青茶 24.9 1.9 122.6
31 葉脈 明緑 23.6 4.8 125.9 0.2
32 鶴の足 54.0
33 落款 15.7 55.8
34 葉の穴 暗茶 28.2 23.1
35 166.9