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画像形成技術の開発に関する研究

画像情報室では、光学的理論を応用しながら最新の機材を使って文化財に関する画像形成技術を開発しています。絵画や彫刻・工芸品などの表面を形成している材質には、それぞれ撮影光源の波長に対する性質に差異があります。それらを視覚的に記録し、さまざまな角度から分析するための研究画像を形成することがこの研究の目的です。可視域の光から特定の波長を選択し、それに対する材質の蛍光反応を撮影する技術や、可視域外の光の波長を利用する赤外線撮影、表面観察を拡大して記録するデジタル撮影を組み合わせることで、鉱物顔料・有機物・媒材・支持体などの表面材質を特定することができるようになります。

 水月観音像
(撮影:城野誠治) 
佐賀県・鏡神社所蔵《水月観音像》の画像形成

高麗仏画を代表する作例です。4メートルにもおよぶ尊容ながら、流れるように美しく、気品にあふれています。伊能忠敬の日記から、蒙古襲来の記憶が日本全国を覆っていた1310年、海を隔てた隣国で、高麗王妃の発願によって造られたことがわかります。元の支配に運命をさいなまれた人々の切なる願いが、物心両面にわたって、この類まれな美質をささえています。

[ 絹本着色  掛幅装  一幅一鋪  429.5×254.2cm ]

複数の材料が複合的・重層的に混合あるいは重なりあう形で形成されている文化財の表面は、任意の厚みをもった構造体として把握される必要があります。こうした観点から、絵具層の表面から支持体にもっとも近い面までを断層的に撮影する 基本的な技術を開発し、実際の調査で応用しています。

 

本図の調査にあたっては、
所蔵先の鏡神社をはじめ、
佐賀県立博物館のご協力をいただきました。

近接撮影
高精細デジタルカメラによる近接撮影 (撮影:城野誠治)
絵絹の状態や細部表現・顔料の粒子のようすなどがわかります。
蛍光撮影
可視光励起による蛍光撮影 (撮影:城野誠治)
天然有機色料の光に対する反応を映像として記録する新しい技術です。絵具層の表面の情報を集めるために用います。
   
反射近赤外線撮影
反射近赤外線撮影 (撮影:城野誠治)
絵具層と支持体との中間層の情報を集めるには、反射近赤外線撮影が有効です。墨線を明瞭に可視化するだけでなく、顔料の厚みなどの状態も映像化されます。
透過近赤外線撮影
透過近赤外線撮影 (撮影:城野誠治)
支持体にもっとも近い層の情報を集めるには、透過近赤外線撮影を使います。表具の裏側に光源をおくことで、絵具層に隠れた下絵の墨線や裏彩色・絹の断裂のようすが記録されます。
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