和田英作意見書提出 

記事番号:00055
年月:1936年05月

帝国美術院会員和田英作は、単独で意見書を作製し、五月十六日平生文相宛に提出した。「帝国美術院現下の諸問題に関する意見書」と題する長文のもので、章を分つて改組以来の情勢と展覧会其の他の問題に関する批判を敘し、既定方針の大網を動かしてはならぬ旨を力説したもので、其の結論を抄出すれば、左の通りである。 「帝国美術院は既定方針に基き、其の大綱を断じて変更することなく邁進して以て其の理想とする使命の実現に努むべし。之を支持する者に対しては固より、反対せる者に対しても、斯くして初めて国家施設に対する信頼と敬意とを抱かしむるの道なりと言ふべし。現在行はるる反対意見、若くは根本的再改革意見の殆ど全部は、公正なる理想と大局に通ずる識見より出でたるものにあらず。主として私情に基き、感情的乃至利己的浅見、若くは誤解に出発したるものと認められ、且つ其の理論の傾聴に値するものあるを知らず。 固より制度は時世の進運に伴ふべきものなるを以て、帝国美術院の現行制度が永久に適当なりとするものにあらざるは言を俟たず。唯今日に於て動揺を収拾することを目的とし、応急的妥協の方策を立てゝ既定方針を動かすが如きことあらんか、必ずや大局を危殆に陥らしめ安定の目的を達し得ざるのみか、一層其の紛糾を誘致する結果を見るの他なかるべし。動揺を鎮め、美術界を明朗ならしむるの道は一に既定方針の貫徹にあり、而して政府当局の厳然たる態度と帝国美術院の公正なる運用とを以て其の要旨となす。展覧会制度に関しては、大綱は之を動かすべからず。唯、開催方法其の他の細目に就きては考究の上若干の改善を為す余地あるべく、是等は会員会議に於て協議の上、帝国美術院自ら決定すべき事項に属せり。尚展覧会の問題を中心として会員間に存在する再改革等の意見に就きても、姑く之を院内の問題として、会員会議に於て、公明なる方法に依り協議を遂ぐべきものなりと思惟す。」

登録日: 2014年04月11日
更新日: 2020年12月11日 (更新履歴)
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