昔語り下絵(構図II)(Study for Talk on Ancient Romance (Compositional Study II))
1896 / カンヴァス・油彩(Oil on canvas) / 41.1 x 63.3 cm
作品コード:KU-a035 図録番号:図録66

《昔語り》の着想をえたのは帰国直後の京都旅行(1893年秋)のことであった。清水寺附近を散策していて高倉天皇陵のほとりで清閑寺に立ちより、寺の僧が語った小督悲恋の物語りを聞いたとき、黒田は現実から離脱するような不思議な感動におそわれたという。2年後の《朝妝》裸体画問題のあと、ときの文相西園寺公望と会って語り合い、西園寺の斡旋で住友家との契約がなり翌年から制作がはじめられた。本作品のための木炭素描画にみられるように、全身、部分図、裸体まで入念なデッサンが試みられ、さらに油彩による習作が描かれて完成作品がつくられていった。制作が完全に終ったのは2年後の1898年のことである。完成作が焼失してしまった現在、図の全体を知るにはこの《構図II》しかない。黒田の入念な制作過程、習作の数の多さをみても、最高潮期の中でも代表的な作品にあげられるべき作品であった。黒田にとって、新鮮な環境のなかで聞いた物語りの感動から出発し、物語りそのものを描くのではなくて、自分が感動した場を群像の構成をもって再現しようとした制作であった。黒田が帰国後にしばしば語った本当の制作、構想画の試みでもあったが、結果としては現代風俗画を制作したこととなった。この一連の油彩習作と木炭素描は、すべて第1回白馬会展に出品され、その影響から、和田英作《渡頭の夕暮》(東京藝術大学大学美術館蔵)や、白瀧幾之助《稽古》(同前)などの明治風俗画の佳作が生まれたといえよう。


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