研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『東文研ニュース』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


ブータン王国の伝統的建造物保存に関する拠点交流事業

ブータン内務文化省文化局リンジン局長(左)と東文研亀井所長(右)
ワークショップ参加者(国立図書館前庭にて)

 2012年度より文化庁委託事業として継続してきた標題の拠点交流事業の締め括りとして、12月20日から24日まで最終のミッションを現地に派遣し、同国内務文化省文化局と共同で事業総括のためのワークショップを開催しました。民家等の伝統的版築造建造物の適切な保存と耐震性能向上を目指し、3年間にわたり実施してきた工法調査・構造調査の成果を両国メンバーより発表するとともに、今後ブータン側が取り組むべき作業の展望等をめぐって、関係者間で意見交換を行いました。同局局長と東文研所長とが共同議長を務めたこのワークショップには、本事業の直接のカウンターパートである同局遺産保存課のほか、同省災害管理局、建設省技術サービス課、ブータン基準局、国立図書館等から、関係者が出席しました。
 工法調査班は、これまでに約60件の民家や寺院、それらの廃墟、廃村、新築現場等で行ってきた実地調査や職人への聞き取りをもとに、伝統的な工法(補強を意図したと思われる技法を含む)を整理しながら、調査項目の標準化と、建築形式の類型と編年に関する試案について報告しました。他方、構造調査班は、破損状況から窺える構造的弱点の克服を目的とした、材料試験、常時微動計測、及び引き倒し実験の結果に基づいて、構造強度の基本的評価手法と、構造解析の試験的シミュレーションを提示しました。さらにこうした調査を今後どのような手順で継続・発展させ、構造的安定性判定のためのガイドライン策定に結びつけていくか、という中長期的なロードマップを提案するとともに、その間にも急速に失われていく既存建物の保存方法についても議論を行いました。
 3年間の共同調査は、同国の伝統的建築技術を理解するための序章に過ぎず、その歴史的価値評価と適切な保存策の確立のためには、いまだ長い道のりを残しています。しかしその一方で、地震や豪雨等の自然災害や、急激な都市化の波によって、有形無形の文化遺産が失われていく様子も目の当たりにしてきました。私たちに出来ることは、国際的視点からブータンの文化遺産保護を支援することであり、今後も同国の人々と協力しながら努力していきたいと思います。

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板橋区立板橋第一中学校で「国際理解教育」の授業を実施

授業風景1
授業風景2

 2014年11月13日、東京都板橋区立板橋第一中学校で、文化遺産国際協力コンソーシアムの関雄二副会長(国立民族学博物館教授)が、「国際理解教育」の授業を実施しました。
 板橋第一中学校は、学校支援地域本部活動校で、今回その活動の一環として、同中学の地域コーディネーターから総合授業「国際理解教育」の講師派遣依頼を受けました。コンソーシアム事務局では中学校からの依頼は初めてでしたが、今回は板橋区出身の関副会長の派遣を決定し、実現に至りました。
 授業は「文化遺産の国際協力」と題し、50分間、2学年の生徒約150名が参加する講演形式で行われました。
 前半では、まず文化遺産とは何か、日本の城郭や歌舞伎等の写真を交え、有形及び無形の文化遺産を紹介しました。次に、なぜ文化遺産を保護しなければならないのか、保護しないとどのような状況が起こるのか、保護するためには国際協力が必要であり、どのような文化遺産に関する国際協力が実施されているのか、スライドを使用してわかりやすく解説を行いました。
 後半では、関副会長の専門である南米(ペルー)での文化遺産保護に関する国際協力を事例として採り上げ、自身の幅広く豊富な経験を交えつつ、ペルーでの協力事業に関する写真を用いて説明を行いました。
 コンソーシアムでは今後もこのような文化遺産国際協力活動に関する広報・普及活動を実施し、国際協力の重要性を伝えていく予定です。

第18回ICOMOS総会への参加

会場外観
総会の様子

 2014年11月9日から14日にかけて、イタリア・フィレンツェで開催されたICOMOSの第18回総会に参加しました。ICOMOS(International Council on Monuments and Sites)は、1964年に記念物と遺跡の保存と修復に関する国際憲章(ヴェニス憲章)が採択されたことを受け、文化遺産の保護と保全に尽力する国際的なNGOとして1965年に設立されました。現在では全世界で10,000名以上の会員を擁しており、UNESCOの諮問機関として世界遺産申請の審査にあたっていることでも知られています。
 総会は3年に一度開催され、執行部の選挙や国際シンポジウムが行われます。今回の選挙ではグスタボ・アローズ会長が会長職に再任され、九州大学の河野俊行教授が5名いる副会長の一人に選出されました。また、総会と同時に開催された国際シンポジウム「Heritage and Landscape as Human Values」では、伝統的知識に基づいた持続的な保全や地域社会主導の遺産保全など、各国が遺産保護の現場で直面する共通の問題について、多岐にわたる発表がありました。さらに、今年はヴェニス憲章が採択されて50周年、オーセンティシティーに関する奈良ドキュメント(奈良文書)が採択されて20周年であることを記念して、関係者からこれらが採択された背景やその後の発展について、パネルディスカッションが行われました。
 本研究所では、今後もこうした国際会議へ参加しつつ、文化遺産保護に関する国際情報の収集と蓄積に努めたいと考えています。

国際研修「ラテンアメリカにおける紙の保存と修復」の開催

小麦糊準備の実習
裏打ち作業のデモンストレーション

 本研修は、文化財保存修復国際センター(ICCROM)のラテンアメリカ・カリブ海地域における文化遺産の保存プログラム(LATAM)の一環として、当研究所、ICCROM、メキシコ国立人類学歴史機構国立文化財保存修復機関(CNCPC-INAH)の3者協同で開催されました。11月5日から11月30日にかけて CNCPC-INAH で行われ、スペイン、キューバ、コロンビア、エクアドル、ブラジル、ペルー、アルゼンチン、メキシコの8カ国から、文化財修復の専門家9名の参加がありました。
 本研修では、日本の伝統的な紙、接着剤、道具についての基本的な知識と技術を教授し、それらを応用して各国の文化財の保存修復に役立てることを目的としています。研修の前半は、装潢修理技術に用いる材料、道具、技術をテーマに、日本人講師が講義、実習を行いました。本年度の研修では、修復作業時の安全性に直接つながる作業環境の整備、作業準備、道具の手入れ、片づけなどに重点を置いて実習を行いました。後半では、当研究所の事業「国際研修 紙の保存と修復」を修了した後、日本の技術を欧米の文化財修復に応用した経験のあるメキシコ、スペイン、アルゼンチンの講師がその活用事例を紹介し、実習を行いました。日本の装潢修理技術が、各国の文化遺産の保存修復に応用されることを期待して、今後も同様の研修を継続してゆく予定です。

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選定保存技術の調査2-琉球藍・和紙漉簀制作・左官

琉球藍(泥藍)
漉簀制作
ちりまわり(壁塗りの一工程)

 先月に引き続き、文化遺産国際協力センターでは、選定保存技術についての調査を進め、選定保存技術保持者、選定保存技術保存団体の方々から実際の作業工程やお仕事を取り巻く状況や社会的環境などについてお話を伺い、作業風景や作業に用いる道具などについても撮影記録を行っています。2014年11月には、沖縄で琉球藍製造、愛媛で和紙漉簀(すきす)制作、東京で左官の調査・取材を行いました。
 琉球藍は本土の藍とは植物の種類が違い、栽培や製造の工程も蓼(タデ)藍による藍染めとは大きく異なります。選定保存技術保持者である伊野波盛正氏と同氏の技術を継承されている仲西利夫氏より、最近の台風や天候不順が藍の生育に影響を及ぼしている状況や、藍の製造工程などについてお話を伺いました。
 愛媛では全国手漉和紙用具製作技術保存会会員で愛媛県伝統工芸士にも認定されている井原圭子氏より、漉簀制作の現状、材料である竹ひごや絹糸の調達、後継者育成の難しさなどについてお話を伺いました。
 また東京の伝統建築物復元工事現場において、中島左官株式会社による壁塗りの工程の一部を取材させて頂きました。伝統的左官技術は、全国文化財壁技術保存会が選定保存技術保存団体として認定されています。
 文化財はそのものを守るだけではなく、文化財を形作っている材料や技術も保存していく必要があります。この調査で得られた成果は、文化財の研究資料として蓄積していくと同時に、その一部は海外向けに視覚的効果の高い画像を使用したカレンダーという媒体を通じて、日本の文化財のありかた、文化財をつくり、守る材料、技術として発信していく予定です。

選定保存技術の調査―蒔絵筆・本藍染・檜皮採取

蒔絵筆制作
本藍染
檜皮採取

 文化財は人類共通の財産として後世に守り伝えていく必要があります。そして文化財を作る材料、道具、修復する技術も継承、活用されていかなければ、文化財を良好な状態で保存していくことはできません。日本の文化財の保存修復技術はその有用性が海外でも認識され、応用されています。文化財の保存のために欠くことのできない伝統的な技術で保存の措置を講ずる必要があるものを、文部科学大臣は選定保存技術として選定し、その保持者および保存団体を認定しています。現在、選定保存技術の選定件数は71件、保持者数は57名、保持団体は31団体あります。
 文化遺産国際協力センターでは、選定保存技術にかんする調査を進め、広く国内外に情報発信を行っています。選定保存技術保持者の方々から作業工程や作業を取り巻く状況や社会的環境などについて聞き取り調査を行い、作業風景や作業に用いる道具などについて撮影記録を行っています。2014年10月には、京都・村田九郎兵衛商店にて村田重行氏による蒔絵筆の制作、滋賀・紺九にて森義男氏による本藍染、兵庫・粟賀神社にて大野浩二氏による檜皮採取の調査・取材を行いました。今回調査させて頂いた3件は漆芸、染織、建築といったそれぞれ異なるジャンルの伝統的、専門的技術ですが、天然の材料と真摯に向き合い、さまざまな環境の変化に対応しながら人の叡智と技術によって伝統を守り続けていることは共通すると言えます。この調査で得られた成果は、文化財の研究資料として蓄積・活用して行くと同時に、海外向けには視覚的効果の高い画像を使用したカレンダーという頒布媒体を通じて、日本文化のありかたや、文化財をつくり、守る材料・技術として国際的に発信していく予定です。

キルギス共和国及び中央アジア諸国における文化遺産保護に関する拠点交流事業

アク・ベシム遺跡出土土器の実測実習

 文化遺産国際協力センターは、文化庁の文化遺産国際協力拠点交流事業の枠組みに基づき、2011年度より、キルギス共和国及び中央アジア諸国における文化遺産保護への協力を実施しています。これまで、キルギス共和国において、「ドキュメンテーション」、「発掘」、「保存修復」、「史跡整備」をテーマに文化遺産保護に関連する分野の人材育成ワークショップを行ってきました。
 本事業の最終年度にあたり、本年は、7月に日本国内での史跡整備と展示に関する視察及びワークショップを実施し、それに引き続き、10月27日から11月1日までの6日間、第8回ワークショップ「展示と調査報告書作成に関する人材育成ワークショップ」をキルギス共和国のビシュケクで実施しました。このワークショップには、キルギスから12名の研修生が参加しました。
 キルギス国内の博物館は未だ十分な設備と人材が整えられているとは言い難いのが現状です。このため、ワークショップでは博物館における展示技法、照明や温湿度管理及び展示室の管理手法に関する講義を行いました。また、それに続いて、遺物実測や観察表作成等を含む報告書作成の技術についての講義・実習を行いました。あわせて、近年、考古学調査手法の多様化により、調査報告書に掲載される内容も多種の自然科学分析が含まれるようになってきたことから、2012~2013年度にかけて発掘研修を行ったアク・ベシム遺跡でサンプリングした動植物遺存体の分析手法に関する講義・実習も行いました。
 本枠組みでのワークショップ開催は今回で終了となります。しかしながら、キルギス及び中央アジア諸国の博物館や保存修復施設、史跡整備の現状を鑑みると、今なお文化遺産保護全般に関する国際支援が必要です。文化遺産国際協力センターは、今後もひき続き、中央アジアの文化遺産の保護を目的とした様々な文化遺産国際協力事業に取り組んでいく予定です。

イラン•イスラム共和国の文化財建造物の専門家招致

イラン文化財に関する研究会の開催
兵庫耐震工学研究センター視察

 文部科学省「新世紀国際教育交流プロジェクト」の一環として、イラン・イスラム共和国(以下、イラン)のイスファハーン大学准教授であり、2003年に起きた地震で多大な被害を受けたバム遺跡の修復に深く携わっているメフルダード・ヘジャーズィー氏を8月26日から9月5日までの日程で日本へ招聘しました。招聘にあわせてイランを対象とする国内研究者に、考古学、言語学など多様な分野から集まっていただき、イランの文化財建造物に関する研究会を開催しました。この研究会ではヘジャーズィー氏にイランの文化財における保存修復の課題と展望について発表して頂き、参加研究者を交えてイランの文化財について多くの議論を交わす事が出来ました。
 わが国は地震や津波など多くの天災がありますが、脆い日干し煉瓦で出来た文化財のあるイランでも、地震は文化財へ深刻な被害を与えています。招聘期間中、ヘジャーズィー氏には日本の文化財建造物の保存修復の考え方や事業への理解を深めてもらうとともに、兵庫耐震工学研究センターにある世界最大の耐震実験施設の視察や、東日本大震災によって被災した宮城県大崎市にある旧有備館や気仙沼市内湾地区の文化財の視察を通じて、イランと日本における文化財の修復手法や防災対策についても深い議論を交わす事が出来ました。
 本招聘事業は、今後のイランと日本間の一層の文化交流を推進するための手がかり となる、実りの多いものとなりました。

国際研修「紙の保存と修復」2014の開催

紙文化財の修復実習風景

 8月25日から9月12日の日程で、国際研修「紙の保存と修復」を開催しました。本研修は東京文化財研究所とイクロムとの共催で行っており、日本の紙文化財の保存と修復に関する技術や知識を海外の文化財関係者に伝えることを主旨としています。今年は69名の応募の中からニュージーランド、台湾、デンマーク、イギリス、セルビア、フランス、キューバ、アメリカ、オーストラリア、タイの文化財修復関係者10名を招きました。
 講義では、修復材料に関する基礎科学や学術的見地から見た文化財といった内容を取り上げました。また実習では、巻子形式の紙文化財の修復から仕立てまでを実施し、和綴じ冊子の作製も行いました。さらに日本の文化財の代表的な形態である屏風と掛軸の構造について学び、その取扱い方法の実習を行いました。見学では、岐阜県美濃地方を訪れて手漉き和紙の製作工程、原料、歴史的背景などについて学びました。また、京都の伝統的な修復工房や道具・材料店も訪れました。最終日のディスカッションでは、各国での和紙の利用状況に関する情報交換や修復に関する技術的な質問が挙げられ、活発な議論が交わされました。この研修を通して、海外での文化財修復に日本の技術が役立てられることが期待されます。さらに今後も同様の研修を継続していく予定です。

ブータンにおける伝統的版築造建造物に関する調査

離村が進むテンチュカ集落における調査
職人による人体尺の説明

 文化庁委託「文化遺産国際協力拠点交流事業」によるブータン王国内務文化省との協力も3年目となりました。この事業では、同国で一般的な版築造の民家等建造物の保存と安全性向上を目標に、建築史学と構造力学の観点から、伝統的工法の把握・解明と構造強度・耐震性能の分析などの調査研究を継続しています。同省文化局遺産保存課(DCHS)をカウンターパートとする第5回目の現地調査を9月18日から27日にかけて実施しました。
 今回はまず、所定の材料調合に従ってDCHSに事前に作成してもらった複数の試料からコアを採取して強度試験を行い、石灰を混合することによる版築壁の補強効果を確認しました。また、従来は職人の勘のみに頼ってきた材料土の粒度分布や最適含水比などを実験により数値化する作業手順等をDCHSスタッフに指導しました。さらに、構造班はティンプー市近郊の寺院本堂について挙動特性のシミュレーションを行うため、常時微動の計測を実施しました。
 一方、工法班はパロ県内の農村集落で古い様式を残すと思われる民家およびその廃墟を調査し、構造形式上の変遷やその壁体構築技法との関係などを探ることに努めました。併せて、版築工事の経験が豊富な職人や技術者に対する聞き取り調査を行い、彼らが持つ知識を教わるとともに、改良案の有効性などについて意見を交換しました。 雨の多い中での調査でしたが、昨年実測したばかりの建物が既に倒壊していたり、数日おいて再訪した建物に新たな破損が生じているのを発見したりと、十分な維持がされなくなった建物の脆さを実感させられる場面が多く、伝統的建造物保護の緊急性を改めて認識した次第です。

タジキスタン共和国フルブック遺跡出土の壁画の保存修復および展示

修復作業の様子(マウントボードに壁画片を配置)
修復された壁画のオープニングセレモニーの様子

 9月11日から10月2日までタジキスタン国立古代博物館において、フルブック遺跡出土の壁画断片の保存修復および展示作業を実施しました。この壁画断片は10世紀から11世紀頃に製作されたと推定されるもので、類例が少ないため、同国及び中央アジアの美術史に関わる貴重な学術資料のひとつです。当研究所では2010年度よりタジキスタン共和国科学アカデミー歴史•考古•民族研究所と協力して、この壁画断片の本格的な保存修復を実施し、昨年度までに小断片の接合、強化や安定化処置を行いました。
 今年度は安全な展示に向けたマウント処置を目的として、まず、壁画断片の裏面のサポート作製とその取り付けを行いました。次に17片の壁画断片を1つの連続した図像として鑑賞できるよう、発掘当時に作成された線画を元に幅91×高さ182cmのマウントボードに配置して取り付けました。壁画断片の周囲は質感を合わせた化粧モルタルを施しています。また、固定にはボルトとナットを使用し、他博物館での展示のための移動など、将来マウントボードから取り外す必要が生じた際には、安全に取り外しができる構造になっています。
 展示後には修復された壁画のオープニングセレモニーが開催され、東文研からの出席者の他、国立古代博物館のボボムロエフ館長、歴史•考古•民族科学アカデミーのマソフ所長、在タジキスタン鎌田日本大使が出席されました。この壁画はフルブック遺跡の出土品を集めた国立古代博物館の一室に、今後も展示され続ける予定です。
 なお、本修復事業の一部は、住友財団「海外の文化財維持・修復事業」の助成により実施しています。

国際シンポジウム「世界遺産としてのシルクロード―日本による文化遺産国際協力の軌跡―」を開催

講演の様子
パネルディスカッションの様子

 文化遺産国際協力コンソーシアムは9月27日、イイノホールにて国際シンポジウム「世界遺産としてのシルクロード―日本による文化遺産国際協力の軌跡―」(文化庁と共催)を開催いたしました。本会では今年6月に世界遺産に登録された「シルクロード:長安-天山回廊の道路網」に関連し、これまでの日本による支援や今回の登録の意義、ならびにシルクロードと日本の関係をテーマとして取り上げました。
 シンポジウム前半ではまず、文化遺産国際協力センター地域環境研究室長の山内和也より、「シルクロード世界遺産登録への日本の貢献」と題し、基調講演を行ないました。さらに中国より新疆ウイグル自治区トルファン地区文物局の王霄飛氏、カザフスタンより考古学エキスパタイズのドミトリイ・ヴォヤーキン氏をお迎えし、各国の世界遺産登録に向けての取組みや構成資産についてご講演頂きました。後半のパネルディスカッションでは、パネリストにシルクロード関連の専門家4名(大東文化大学・藏中しのぶ氏、奈良県立橿原考古学研究所・西藤清秀氏、東大寺・森本公誠長老、京都大学・吉田豊氏)をお迎えし、当コンソーシアム副会長の前田耕作による司会で「シルクロードと日本」と題し、各ご専門分野の立場からシルクロードと日本のつながりについてお話頂きました。
 今回は300名の参加者があり、シルクロードの世界遺産登録に日本が多大な貢献をしてきたことを多くの方に知っていただく機会となりました。

歴史的木造建造物保存に関するミャンマー文化省職員招聘研修

瓦を寄進する研修生(東大寺大仏殿)
修理工事の現場説明(姫路城)
乾拓の実習(天野山金剛寺)

 文化庁委託による「ミャンマーの文化遺産保護に関する拠点交流事業」で昨年度より継続中の歴史的木造建造物保存研修プログラムの一環として、日本国内での第1回招聘研修を実施しました。今回は、既にミャンマー国内での研修に参加しているメンバーの中から、ミャンマー文化省考古・国立博物館局の職員3名が、8月21日から30日までの日程で来日しました。わが国における文化財建造物保存の考え方と修理事業の実情等への理解を深めてもらうことを主な目的とする本研修では、基本的テーマに関する座学の他、関西方面をはじめとする文化財建造物修理工事現場を訪問し、設計監理を担当する修理技術者の方々からお話を伺いながら作業の手順や調査・計画の具体的手法等を学んでもらいました。
 初めて目にする大規模な修理工事の現場や、整然と並べられた解体部材の状況などは、研修生たちに強い印象を与えた様子で、現場での熱心な質疑や実習等を通じて、多くの知見を得られたようです。とりわけ、修理の過程に伴って綿密に行われる建物の調査や記録の方法、大工職人の丁寧な仕事ぶり等には大いに関心が示されていました。無論、わが国で行われている方法の全てが直ちにミャンマーに移植できるものではありませんが、今後ミャンマーでの歴史的木造建造物保存修復を担っていくべき彼らが、自らの文化遺産をいかにして将来に護り伝えていくかを考える上で、貴重な経験になったことと思います。引き続き協力事業を実施することで、同国の文化遺産保護に貢献していきたく思います。

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キルギス共和国及び中央アジア諸国における文化遺産保護に関する拠点交流事業

人材育成ワークショップに参加した研修生と金沢大学の大学院生

 文化遺産国際協力センターは、中央アジアの文化遺産保護を目的に、文化庁の受託を受け、2011年度より、中央アジア、キルギス共和国において「ドキュメンテーション」、「発掘」、「保存修復」、「史跡整備」をテーマに一連の人材育成ワークショップを実施しています。
 2014年7月3日から7月14日までの12日間、第7回目のワークショップ「史跡整備と展示に関する人材育成ワークショップ」を実施しました。
 今年の6月カタールで開催された世界遺産委員会で中央アジアのシルクロード関連史跡が世界文化遺産に登録されることが決定しました。しかし、ほとんどの史跡では史跡整備が追い付いていないのが現状です。現在、史跡整備、オンサイト・ミュージアムの建設は、中央アジア諸国で緊急の課題となっています。
 そのため、今回、キルギス共和国から3名、アフガニスタン・イスラーム共和国から3名の若手専門家を日本に招聘し、「史跡整備」と「展示」に関する人材育成ワークショップを実施しました。東京文化財研究所、奈良文化財研究所において、講義を実施したのち、日本を代表する考古博物館や史跡などの視察を行いました。
 また、今回の人材育成ワークショップには、金沢大学国際文化資源学センターが実施する「文化資源マネージャー養成プログラム」などの大学院生8名も参加してくれました。

カンボジア・タネイ遺跡における三次元写真計測

データ処理に取り組むアプサラ機構のスタッフたち
SfMによるタネイ遺跡内回廊西辺西側の三次元モデル

 アンコール遺跡群の保存管理を担当するアプサラ機構との共同研究・協力事業の一環として、7月21日から30日までの日程で、タネイ遺跡において同機構のスタッフとともに三次元写真計測を行いました。アプサラ機構が近年中に着手を予定しているタネイ遺跡の保存整備事業に向けた計画検討のための基礎資料作成に対する技術支援として、写真測量による三次元計測をもとに、立面図と散乱石材の記録のための一連の手順の確立を目指したものです。
 三次元計測の技術は日進月歩ですが、今回、私たちが試行したのはSfM(Structure from Motion)という手法で、高価な機材やソフトウェアを必要としない比較的簡便な方法であることが特筆されます。現場ではスマートフォン等の簡易なカメラで遺跡の現状写真を網羅的に撮影し、それらのデータをオープンソースのソフトウェアを用いて処理することにより、対象物の三次元モデルを得ることができます。一連の作業を通して得られたモデルの精度については、更に詳細な検証を要しますが、基礎資料として利用可能な水準にあるものと考えています。
 今後、カンボジア側がこのような手法を用いて寺院全域を記録していく過程で、実用面ではなお乗り越えるべき課題が残されているものと思いますが、特別な予算や機材を準備することが難しい同国のような発展途上国の遺跡保存の現場において、現地のスタッフ自らが日常業務の範囲内で遺跡の現状を記録できる手法として発展していくことが期待されます。

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ミャンマーの文化遺産保護に関する現地研修及び調査

バガヤ僧院での研修風景
壁画修復材料の調製に関する実習風景
シュエナンドー僧院の仏壇に用いられたガラスモザイク技法と損傷

 ミャンマー文化省考古・国立博物館局(DoA)をカウンターパートとする、文化庁委託「文化遺産国際協力拠点交流事業」の一環として、6月上旬から中旬にかけて現地研修及び調査を以下の通り実施しました。

 1)歴史的木造建造物保存に関する第2回現地研修
 2日から13日まで、マンダレー市内のDoA支局での座学と近郊のバガヤ僧院での現場実習を行い、DoA本・支局から建築・考古分野の職員8名とTechnological University (Mandalay)の教員・学生4名が参加しました。調査の下図となる略平面図の作成、床面の不陸や柱傾斜の測定、破損状態記録の手法などを実習し、班毎の調査成果を発表して今回研修のまとめとしました。一方、ミャンマーの木造文化財に共通する問題であるシロアリの被害について、専門家による調査を実施し、初歩的な講習も行いました。バガヤ僧院での蟻害は建物の上部にまで及んでおり、有効な対策を検討するため、研修生の協力によるモニタリング調査を開始したところです。
 2)煉瓦造遺跡の壁画保存に関する調査及び研修
 11日から17日まで、昨年より継続しているバガン遺跡群内No.1205寺院の壁画の状態調査や堂内環境調査を行い、壁画の損傷図面を作成しました。壁画の状態は比較的堅牢ですが、雨漏りに伴う壁画の崩落や空洞化、シロアリの営巣など今後の対策が必要な損傷が明らかになりました。また、バガン考古博物館では壁画の保存修復や虫害対策に関する研修を行い、DoAバガン支局の保存専門職員6名が参加しました。接着剤や補填材など修復材料に関する実習や、虫害対策に関する講義・実習については研修生らの要望が高く、今後もより応用的な内容で研修を継続していく予定です。
 3)伝統的漆工芸技術に関する調査
 11日から19日まで、バガン及びマンダレーで調査を行いました。バガンでは、軽工業省傘下の漆芸技術大学及び漆芸博物館の協力のもと、虫害調査とともに同博物館に所蔵される漆工品の構造技法や損傷に関する調査を進めました。その結果、応急的なクリーニングや展示保存環境の改善が必要と分かりました。マンダレーでは、ミャンマー産の漆材料に関する聞き取り調査のほか、漆装飾と併用されるガラスモザイク技法に関する調査を材料店と僧院において行いました。さらに、同地のシュエナンドー僧院でも、虫害調査と併せて、建物内外に施された漆芸技法について目視による観察調査を行いました。同僧院は内外部の殆どに漆装飾が施されていますが、紫外線や雨水等によって漆装飾の損傷が著しく進行していることが分かりました。

シンポジウム:シリア文化遺産の保護へ向けて

パネルディスカッションの様子

 2011年4月シリアにおいて大規模な民主化要求運動が発生し、そのうねりはとどまることを知らず、現在では、事実上の内戦状態となっています。シリア国内での死者はすでに14万人を超え、400万人以上が難民となって国外へ逃れています。
 内戦が繰り広げられる中、文化遺産の破壊も、また大きなニュースとして国際的に報道されています。アレッポやクラック・デ・シャバリエなど、シリアを代表する世界遺産が戦場となり、また多くの遺跡が盗掘にあい、博物館が略奪され、シリア国内からの文化財の不法輸出が国際的な問題となっています。このような中、ユネスコは、新たにシリアの文化遺産保護に向けた活動を開始しました。
 6月23日、東京文化財研究所は、シンポジウム「シリア文化遺産の保護へ向けて」を主催し、ユネスコが5月26日から28日にかけて行った専門家会議「シリアの文化遺産を保護するための国際社会への呼びかけ」に関する報告を行い、また、シリア文化遺産保護に向けた国内、海外のさまざまな取り組みを報告しました。

第15回文化遺産国際協力コンソーシアム研究会「文化遺産管理における住民参加」の開催

講演の様子

 文化遺産国際協力コンソーシアムは、6月26日、27日の2日間にわたり、国立民族学博物館との共催で東京文化財研究所セミナー室、大阪国際交流センター小ホールにて標記研究会を実施いたしました。
 近年文化遺産と観光開発の共存を推進する上で、住民参加型の文化遺産管理を主張する動きが地域、国家、国際レベルで見られますが、実践としてなかなかうまく機能しないことが問題視されています。このような現状に鑑み、改めて文化遺産管理における地域住民の役割や可能性について議論するため、今回「文化遺産における住民参加」というテーマを取り上げました。
 講演では当コンソーシアムの関雄二副会長・中南米分科会長による趣旨説明、問題提起の後、北海道大学観光学高等研究センター長の西山徳明氏(ペルー)、同センター特任准教授の八百板季穂氏(フィジー、ペルー)、公益財団法人文化財建造物保存技術協会の益田兼房氏(ミクロネシア)およびイーストアングリア大学日本美術・文化遺産准教授の松田陽氏(イタリア、英国)の4名の専門家から、それぞれ地域住民を巻き込む形での文化遺産のマネジメントの実態について事例報告いただきました。
 講演後のパネルディスカッションでは、講演で取り上げた事例と会場からの質問内容をふまえ、住民参加の理念の問題、実践における課題や国際協力の観点からの可能性について等、活発に議論が行なわれました。2日間で約130名の方にご参加いただき、文化遺産管理に携わるあらゆる立場から質問や意見が寄せられ、本テーマに対する関心の高さを窺い知ることができました。

飛鳥&天平衣装ファッションショー『平城宮ことはじめ』への参加

ファッションショーの様子
集合写真

 2014年4月22日から5月18日まで東京国立博物館で開催された特別展「キトラ古墳壁画展」の関連イベントとして、5月8日に同館講堂にて「飛鳥&天平衣装ファッションショー『平城宮ことはじめ』」が開催されました(主催:明日香村、文化庁、東京国立博物館、東京文化財研究所、奈良文化財研究所、朝日新聞社、協力:早稲田大学創造理工学部中川研究室)。東京文化財研究所からも13名のスタッフがモデルとして参加し、手作りの古代衣装に身を包むという、初めての貴重な体験をさせていただきました。これらの衣装はすべて古代衣装研究家、山口千代子先生(天平衣装企画)の手になるもので、和銅3年(710年)の平城宮内裏を舞台とした歴史の一幕が、奈良文化財研究所の杉山洋企画調整部長の企画演出により、きらびやかに再現されました。
 私自身もモデルの一人として参加させていただき、関係者一同が一丸となって一つの舞台を創り上げるという、楽しい緊張感と高揚感を味わいながら、古代世界に想いを馳せました。美しい衣装を身に付け、髪を結い上げ、沢山の装飾品をまといながら、往時の宮中の人々がどのように振る舞っていたのかと想像しようとしましたが、自分の想像力では全く追いつくことができず、歴史を学ぶことの難しさを改めて、身を以て実感するに至ったという体験でした。関係者の方々のご尽力に心から敬意を表するとともに、これからも更に興味を持って、歴史と向き合っていきたいと思っています。

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アルメニア歴史博物館所蔵考古金属資料の保存修復ワークショップ開催

アルメニア歴史博物館におけるワークショップ成果の展示
展示オープニングセレモニーの様子(右端が亀井所長)

 文化遺産国際協力センターでは、文化庁委託文化遺産国際協力拠点交流事業の一環として、アルメニア歴史博物館にて、平成26年5月20日~27日に第6回国内ワークショップを開催しました。本事業は、4カ年計画であり、これまでに考古金属資料の保存修復に関する一連の人材育成・技術移転を実施してきました。最終年度である本年のワークショップのテーマは「博物館における展示」です。
 アルメニア国内専門家6名、グルジア、ロシアからの2名の専門家を対象に、日本人専門家が、日本の博物館における展示事例紹介、展示の際に考慮すべき光や温湿度の影響、展示解説の有り方、展示に使用する材料などについて講義を実施しました。引き続いて、これまでのワークショップにおいて保存修復処置を終えた資料の展示作業をワークショップ参加者が主体となって行いました。展示では、アルメニアと日本の共同事業の成果を公開するだけでなく、博物館における保存修復活動を多くの人々に知ってもらえるよう、ワークショップ参加者が意見を出し合い工夫しました。具体的には、保存修復処置を行った資料とともに処置前の資料の写真を展示し、保存修復処置の一連の流れを映像にて上映しました。また、より詳細な調査研究の内容については、パンフレットを作成し配布しました。展示作業を終えたワークショップの最終日には、展示オープニングセレモニーを開催し、多くの外部関係者の方にもご参加いただきました。
 ワークショップ開催は今回が最後になりますが、今後は報告書の発刊を行う予定です。

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