研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『東文研ニュース』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


「シルクロードの世界遺産登録のための国際シンポジウム」への参加

シルクロードの世界遺産登録のための国際シンポジウム

 10月30日及び31日に中国の西安で、2010年に予定されている「道としてのシルクロードの世界遺産への登録」のためのシンポジウムが開催されました。日本側からは、同シンポジウムには山内地域環境研究室長と前田耕作客員研究員が参加しました。日本にとっては、このシルクロードの登録はいくつかの問題を孕んでいます。特に問題となるのは、登録が予定されているシルクロードの地理的な範囲です。現時点では、シルクロードの東側の起点とされているのが中国の西安(長安)であり、日本、特に奈良の存在が考慮されていません。登録の申請書でどのような地理的な概念規定がなされていくかについて、今後とも強い関心を持ち続ける必要があると思われます。

アンコール遺跡の救済と発展に関する国際調整委員会総会

 表題の会議が2007年11月28日、カンボジアのシエムリアップで開催されました。年2回の委員会のうち技術委員会では、遺跡の保存修復や調査研究などに携わる組織の活動報告が行われますが、総会はより総合的な討議を行う場とされています。今回、口頭での活動報告は一部の大規模事業だけで、ほとんどの組織は事前に文章で活動報告を提出、会場で報告書集が配られました。
 本委員会の対象はアンコール遺跡ですが、実は今回、しばしば話題になったのはプレア・ヴィヒア遺跡でした。この遺跡はタイとの国境に位置し、来年には世界遺産リスト登録が確実とみられている重要な遺跡です。このほど、この遺跡の保存・整備にタイが協力することとなり、また両国のほかいくつかの国による国際調整委員会の組織が検討されている状況で、当該遺跡への関与についての意思表明が関係各国からなされました。日本に期待される役割はまだ具体的には示されないものの、大きいことは確かで、今後、何ができるのかを検討していく必要があるでしょう。

「韓国中央アジア学会」に参加して

韓国中央アジア学会主要メンバーとの記念撮影

 11月10日にソウルの国立中央博物館で「韓国中央アジア学会」に開催されました。今回の学会は、「敦煌」をテーマとするもので、フランス・ギメ東洋美術館のジャック=ジエス氏、イギリス・大英図書館のスーザン=ウィットフィールド氏、ロシア・エルミタージュ美術館のサモスュク=キラ氏が敦煌壁画、敦煌文書の研究、アーカイブをテーマに報告を行い、敦煌研究院の李最雄氏が敦煌壁画の保存と科学研究について、東文研文化遺産国際協力センターの岡田健が日中共同による敦煌壁画の保護活動について報告を行うという、敦煌学の全体とそれに関わる世界中の専門家の活動にまで視野を広げた、極めて意欲的な学会でした。韓国の中央アジア学会は創立14年という若い組織ですが、日本や中国、アメリカで学位を取った研究者も多く、自らの研究対象へ積極的にアプローチする姿勢はすばらしいものです。11月2日に同じ国立中央博物館で設立された「東アジア文化財保存学会」、あるいは毎年着実に実績をあげつつある「日中韓・紙の文化財保護学会」など、韓国との連携は文化遺産研究と保護のあらゆる面で、今後重要さを増していくことでしょう。

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シルクロード沿線人材育成プログラム「紙の文化財」研修コース・実技実習

坂田雅之氏(国宝修理装こう師連盟)による実技指導

 中国文物研究所(北京)での人材育成プログラムは、11月になり日中の専門家の指導による実習授業に入りました。近年開発された中性紙等の材料による書籍の保存・保管方法についての授業は、修理に重点を置いた研修を想定し参加した研修生にとって新鮮な内容であったようです。いっぽう、伝統的な修復技術に関しては日中の方法に違いがあり、「中国の紙の文化財」保存に貢献するため、日本側の専門家がどのように日本の技術を伝えていくか、現場での試行錯誤が続いています。しかしこれによって、研修生への指導にとどまらず、日中の専門家による技術交流も促進できるものと期待されています。

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イラク人保存修復専門家の研修事業(2)

真空凍結乾燥処理後の遺物のクリーニング作業(静岡県埋蔵文化財調査研究所)

 3ヶ月にわたるイラク人専門家への保存修復の研修は順調に進み、これまでにほぼ半分が終了しました。
 9月末から10月末にかけ、4名の研修生は東京文化財研究所での保存修復に関する基礎講義と乾燥した木製遺物の保存修復の実習に参加しました。つづく10月29日から11月9日には、(財)静岡県埋蔵文化財調査研究所の協力を得て、遺跡から出土した水浸木材の保存修復について研修を行いました。静岡市駿府城内遺跡(15~16世紀)の発掘現場では、実際に液体窒素や発泡ウレタンを使った脆弱な木製遺物の取り上げ作業を経験したほか、静岡県埋蔵文化財調査研究所・清水事務所では、実際の出土遺物に対して、PEGや凍結乾燥による強化処理や、クリーニングや接合、補彩といった一連の保存修復の作業に携わりました。
 今後、奈良文化財研究所において保存修復の作業に用いられるさまざまな機材についての研修を受け、最後に今回の研修の成果についての報告を行ない、研修を修了する予定です。

インドネシア・プランバナン遺跡復興支援第3次調査―文化庁「文化遺産国際協力拠点交流事業」―

ガルーダ祠堂 解体の始まった頂部の調査
東京文化財研究所とジョグジャカルタ特別州考古遺跡管理事務所のメンバー

 文化遺産国際協力センターでは、2006年5月27日のジャワ中部地震で被災した世界遺産プランバナン遺跡の復興支援事業への協力を行なっています。日本の草の根文化無償の支援によるガルーダ祠堂の足場の架設工事の完了を受けて、2007年10月22日から11月4日にかけて第3次ミッションを派遣しました。今回の調査では、部分解体が始まったガルーダ祠堂を中心に、頂部の被害状況と内部構造の確認、過去の修復に関する文献収集調査および聞き取り調査を行ったほか、ガルーダ祠堂とほぼ同じ構造をもつハンサ祠堂を対象に、構造体の振動特性の究明のための地震動計によるモニタリングを開始しました。これらの調査はジョグジャカルタ特別州考古遺跡管理事務所、ガジャマダ大学との協力を得て実施されました。
 現在は、調査に先だって作成された祠堂各面の幾何補正画像を活用し、各石材の破損状態、補修方法と解体範囲を図示し、修理事業費の積算が可能な水準での設計資料を整える準備を進めています。さらに、祠堂の構造特性に関する解析結果に基づき構造補強方法を検討の上、修理設計案を本年度中に提示していく予定です。

シルクロード沿線人材育成プログラム「紙の文化財」研修コース始まる

清水真一センター長による文化財保護概論
岡岩太郎氏(国宝修理装こう師連盟)による日本の紙の紹介

 シルクロード沿線の文化財保護に従事する中国の人材を育成する共同プログラムは、10月8日から12月27日までの日程で、北京の中国文物研究所において、2007年度後期「紙の文化財」研修コースがスタートしました。この研修コースにおいては、中国と日本の「紙の文化財」保存に関わる専門家が講師をつとめます。日本からは12名の専門家が、10週にわたって北京に滞在し、理論講座と実技指導を担当します。伝統的な保存修理技術だけではなく、現代科学によって解明された紙の文化財の材料や技法に関する講義や、新しい欧米的な保存方法などについての講義もあり、シルクロード沿線の各地から集まった12名の研修生が十分な成果をあげられるよう工夫を凝らしています。

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石造文化財の保存処理技術に関する研究会(西安)

現地(乾陵東門)視察

 2004年度以来、西安文物保護修復センターと共同で推進している「唐代陵墓石彫像保護修復事業」では、毎年一回日中専門家による研究会を開催しています。第4回目となる今回は、10月11日から13日の日程で西安市において開催しました。中国国内からは、同じく私たちが保護のための共同研究を進めている龍門石窟研究院からも担当者が派遣され出席しました。西安・龍門ともに来年度での事業終了を目前に控え、修復作業がいよいよ最終段階に入るにあたり、「石造文化財の保存処理技術に関する研究会―石造文化財の保存修復と展示方法/保存処置に際しての接合部分及び表面の化粧方法」というテーマで、事例報告と討論を行いました。日本からは石造文化財の修復に豊富な経験のある海老澤孝雄氏(ざエトス)に参加して頂きました。

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日印共同によるアジャンター壁画の技法材料、製作技法と保存に関する調査研究―文化庁「文化遺産国際協力拠点交流事業」―

壁画に塗布されたシェラックの暗色化によって図像が見えにくくなっている壁画について、インド考古局の専門家から説明をうける
今回共同調査を行った、東京文化財研究所とインド考古局(アジャンター現地オフィス)のメンバー

 東京文化財研究所は、インドと共同でアジャンター遺跡の壁画の技法材料、製作技法に関する情報や知識を交換・共有し、また保存修復に関する人材育成・技術移転することを目的とした事業を予定しています。そのために、9月25日から10月3日まで、インド・アジャンター遺跡での予備調査とカウンターパートであるインド考古局との意見交換を実施しました。
 アジャンター遺跡には、玄武岩からなる馬蹄形の渓谷に、30におよぶ仏教石窟が開鑿され、壮麗な仏伝を中心とする仏教壁画と数多くの彫刻が残されています。現在私たちが目にすることができる壁画の多くは、もともとの鮮やかな色調とは異なり、かなり黄色がかったものとなってしまっています。これは、かつて、イタリア人やインド人保存修復家たちにより、表面の保護や色彩をはっきりさせる目的でシェラック樹脂を何度も塗布されてしまった結果によるものです。また、コウモリの尿害や生物被害などにより、絵画が見えにくくなってしまっている場所も数多くみられます。この拠点交流事業のなかで、アジャンター仏教壁画の製作技法、材料について共同で分析を進めていくとともに、アジャンターに特有な保存に関する問題について取り組み、よりよい保存修復のための材料や手法が見出せるように共同研究を開始する予定です。

イラク人保存修復専門家の研修事業

本年度招へいされたイラク人研修生たち

 文化遺産国際協力センターでは、東京文化財研究所の運営交付金およびユネスコ/日本信託基金をもとに、2004年度からイラク国立博物館中央修復研究室の復興のために、イラクの保存修復専門家への研修を継続しています。2007年度は、イラク国立博物館中央修復研究室からファーエザ・M・ジュマー氏、タグリード・H・ヘーゼル氏、ニネヴェ古物遺産局からスィナーン・A・ユーニス氏、イラク・ナーシリーヤ博物館からジャマール・A・A・イスマイール氏の4名の保存修復専門家を招へいし、2007年9月19日から12月12日までの3カ月間にわたり、木製品の保存修復研修を実施する予定です。本事業は、奈良文化財研究所および静岡県埋蔵文化財調査研究所の協力を得て実施されます。

中央アジアにおける文化財保護施策に関する国際会議にむけた現状調査

タシケントでの文化財保護制度に関する聞きとり調査

 文化遺産国際協力センターでは、文化財保護施策に関する国際研究の一環として、本年度は中央アジアを対象とした研究を行っています。9月9日から16日には、中央アジアにおける文化財保護に関する現状調査と、3月に中央アジアで実施を予定しているアジア文化遺産国際会議の準備のため、タシケント(ウズベキスタン)とアルマティ(カザフスタン)を訪れ、現地政府やユネスコの関係者と面会し、情報収集およびニーズアセスメントのための協議を行いました。1991年のソビエト崩壊による独立以降、中央アジアの各国では、制度から保存の現場まで幅広い問題に直面しています。今回の調査では、考古遺跡の保存と管理活用、遺物の保存環境、人材育成など、現地で問題視される具体的な課題が示されるとともに、日本および中央アジア諸国の文化財関連分野の専門家による国際会議を実施し、今後の情報交換や技術移転のため、協力していくことで合意が得られました。

タイ・カンボジア現地調査

レンガ造構造物の保存処理の効果に関する評価
(タイ・アユタヤ遺跡)

 文化遺産国際協力センターは、タイおよびカンボジアにおいて、それぞれタイ文化省芸術総局、アンコール地区保存整備機構(APSARA)と共同で現地調査を行いました。タイでは、スコータイ遺跡およびアユタヤ遺跡において調査研究を実施し、スコータイ遺跡では、スリ・チュム寺院の大仏に繁茂するコケ類や藻類等の植物の対策についての調査や実験、アユタヤ遺跡では、3年前に実施したレンガ造遺構の保存処理について、評価のための調査を行いました。
 カンボジアでは、石造文化財の表面に繁茂する植物について、タ・ネイ遺跡での現地調査のほか、アンコール遺跡で使われている石材の石切場となっていたクーレン山周辺での砂岩石材の調査も実施しました。

敦煌派遣研修、4カ月間の日程を終了

敦煌研究院における研修報告会

 敦煌研究院と東京文化財研究所による第5期共同研究・共同事業において、今回初めて日本の人材を敦煌に派遣し研修を受けさせるということが実現しました。これは、敦煌莫高窟を研修場所として、今後ますます需要が高まる国際協力による外国壁画の保存活動に日本が積極的に参加していくための人材を育てることを目的とするものです。正式にスタートした今年度は、5月13日から4カ月間の日程で実施されました。東京芸術大学大学院博士後期課程・佐藤由季さん(絵画修復)、同・藤澤明さん(保存科学)、筑波大学大学院博士後期課程・末森薫さん(文化遺産管理、美術史)の3人が、異なる専門性を活かし、それぞれの不足を補い合いながら、4カ月の長期間、莫高窟の宿舎に泊まりながら、分析研究、劣化状況の調査、保存処理作業の実習、壁画構造の再現制作と模写など、壁画保存に関する全面的な研修を受けました。現場での貴重な体験は、研修の事業としての成功ですが、同時に3人ひとり一人にとっても、将来の研究や仕事に大きな影響をもたらすものであってほしいと願っています。3人はまた、敦煌研究院の数多くの同世代の研究者・専門家と篤い友情を育みました。この研修はさらに3年間を予定しています。

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タジキスタン、アジナ・テパ仏教寺院保存事業

タジキスタンでのユネスコ国際執行委員会の様子

 ユネスコ文化遺産保存日本信託基金による「タジキスタンの仏教遺跡保護プロジェクト」の第3回国際執行委員会が、8月23日から30日までタジキスタンの首都ドシャンベで開催されました。本プロジェクトは、練り土やレンガで構築された土構造物であるアジナ・テパ遺跡の保護を目的としています。文化遺産国際協力センターは、2005年より事業に参加し、遺跡範囲の確認や清掃作業などの考古学調査を実施してきました。
 今回の数回にわたる会議と28日に開かれた国際執行委員会では、2007年春までに実施された活動と遺跡の現状にもとづき、今後の事業方針が討議されました。土壁の保存処置をめぐっていくつかの改善点が指摘され、また、ストゥーパ保護のための覆い屋の建設計画は見直され、代案として練り土で覆う方法が検討されました。そして、タジキスタン側から、これまでの日本人専門家による活動を評価し、引き続き事業への協力が要請されました。これを受けて文化遺産国際協力センターは、保護活動に必要となる考古学的清掃などで協力していく予定です。

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タジキスタンの文化財調査

タジキスタン国立古物博物館の収蔵庫における、ソ連時代に剥ぎ取られたさまざまな遺跡の壁画片の現状
タジキスタン国立古物博物館における、ソ連時代に修復されたペンジケント遺跡の壁画の調査風景

 「西アジア諸国等文化遺産保存修復協力事業」の一環で、8月23日から30日にかけて、タジキスタン国立古物博物館に所蔵されている壁画資料の現状調査を行いました。1991年までソヴィエト連邦に属していたタジキスタンでは、かつてロシア人専門家が主に調査や保存修復を行っていましたが、ソ連邦崩壊後は、地元の研究者や、調査・研究資金の不足が深刻な問題となっています。また、ソ連邦時代の技術や方法論が基礎になっているため、現時点では時代遅れの面が顕著となり、日本や欧米諸国からの技術移転や方法論の導入が急務となっています。
 国立古物博物館には、ペンジケント、シャフリスタン遺跡など、6世紀~8世紀の間に商人として活躍したソグド人によって描かれた極めて貴重な壁画が残されています。収蔵庫には、数十年に及ぶ発掘作業のなかで発見された数多くの壁画が、現地から剥ぎ取られてなにも処置されずに山積みにされたまま放置された状況です。特に、ソ連邦崩壊後は、全ての資料がタジキスタン国内に残されたまま、何の処置も施されていないのが現状です。こういった資料は、無計画な剥ぎ取りに対する倫理的な問題のみならず、合成樹脂の多用による壁画の暗色化など、技術的にもさまざまな問題をはらんでいます。
 学術的に非常に重要な文化遺産を保存していくために、人材育成や技術移転のための緊急的な協力が求められています。

敦煌莫高窟第285窟の共同調査進む

携帯型蛍光X線による分析調査

 敦煌莫高窟には、いまも膨大な壁画芸術が残されています。しかし、現在私たちが肉眼で見ることのできる壁画は、1千年以上もの歳月を経て、制作当初から比べれば甚だしく劣化が進み、変色、褪色、剥落などによってすでに大きく変化してしまったものなのです。壁画の保存は、その劣化のメカニズムを解明し、これ以上劣化を進行させないための処置を施す活動ですが、そもそも当初の壁画制作技法や材料がどのようなものであり、どのような要因によって現在の状態になったかを解明することは、保存の方法を考える上で必要であるとともに、壁画の価値を再び蘇らせるという意味においても、極めて重要です。その両方を兼ね備えてこそ、真の文化財保護と言えます。私たちの日中共同調査は、正常光、側光、赤外線、紫外線蛍光などの写真撮影による観察とともに、デジタル顕微鏡、携帯型蛍光X線、ラマン分光法による非破壊分析調査、微小試料による技法・材料および劣化に関する詳細な分析調査、さらに修復の専門家による劣化状況に対する詳細な観察作業などを総合的に行っています。これによって、これまで知られていなかった第285窟(6世紀前半)における多量の有機色料使用の状態や、特殊な壁画劣化の状況が次第に解明されつつあります。また、放射性炭素(14C)年代測定法による石窟の年代同定、鉛同位体比分析による鉛系顔料の産地同定研究も行い、シルクロードの広い地域を視野に入れた研究を進めています。

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アンコール遺跡の救済と発展に関する国際調整委員会第16回技術委員会

多くの観光客が訪れる遺跡バンテアイ・スレイ

 7月5日・6日の2日間、カンボジアのシエムリアップで標記の委員会が開催されました。この委員会はアンコール遺跡の保護に携わる各組織の取り組みを発表する場で、本研究所もタ・ネイ遺跡の石材上の植物について、同定結果や遺跡内での分布と開空率との関連に関する研究成果を発表しました。
 また、討議のテーマのひとつに「持続的な発展」がありました。2005年の外国人観光客は67万人を越え、遺跡保護のみならず事故防止の点でも、見学路や施設の適切な配置が課題です。近くのシエムリアップでも下水道の未整備やごみの投棄による川の汚染が報告されています。これは遺跡を訪れる人々の責任でもあり、この分野でも各国の経験を生かした国際協力が不可欠だと感じられました。

バーミヤーン遺跡保存事業-第8次ミッション-の概要

I 窟における保存修復活動
仏教時代に遡る可能性のある壁

 文化遺産国際協力センターは、2003年よりアフガニスタン情報文化省と共同で、バーミヤーン遺跡保存事業を行っています。今年は6月9日から7月15日にかけて、第8次ミッションを派遣しました。本ミッションでは、壁画の保存修復と考古学調査に加え、他機関との共同研究も実施しました。
 壁画の保存修復では、これまでの作業を継続し、I窟とN(a)窟の2石窟で作業を行いました。I窟では、剥落するおそれのある壁画をグラウティングとエッジングによって補強し、今ミッションをもってこの石窟における壁画の保存修復作業をすべて成功裏に終了することができました。また、N(a)窟では、次ミッションに予定している壁画表面のスス状黒色物質を除去する準備として、壁画の補強を行いました。
 考古学調査では、保護すべき遺跡の範囲を確定するために、試掘調査と分布調査を実施しました。試掘調査はバーミヤーン渓谷の数箇所で行われ、その内の一箇所からは、おそらく仏教時代にまで遡る壁が出土しました。また、遺跡の分布調査を周辺に位置する渓谷において実施し、これまで知られていなかった墓地や城砦などの遺跡を発見しました。こうした考古学調査は、とかく仏教時代のみが注目されがちなバーミヤーンを、現代まで続く歴史の中に位置づけて理解するために重要なものです。
 共同研究として、金沢大学、株式会社応用地質、株式会社パスコの3つの機関と、それぞれ、イスラーム陶器の研究、地質調査、石窟の測量調査を行いました。これらの調査・研究は、今後も継続する予定で、バーミヤーン遺跡を保存するうえで必要不可欠なさまざまな情報や視点を提供してくれるものと期待されます。

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インドネシア・プランバナン遺跡復興専門家会合

プランバナン寺院ガルーダ祠堂

 2006年5月27日に発生したジャワ島中部地震により被災した世界遺産プランバナン遺跡群については、昨年度に派遣した調査団により被害状況、修理履歴、地盤、構造体の振動特性などの基礎的調査を行っています。2007年6月29日、30日の2日間にわたり現地で開催された専門家会合では、インドネシア側が行った地盤や構造体の調査も含めてこれまでに実施した調査結果についての総合的な検討を行いました。これに基づいて一部解体を含む修理の方針や手順などについて基本的な方向付けが出来ました。また、具体的に修理設計を進めていくためにさらに必要な調査事項について協議しました。
 日本からの技術協力の内容としては、遺跡群の中枢をなし早期公開が望まれているプランバナン寺院について、本年度中に修理設計を取りまとめるために必要な支援を行うことです。具体的には、地震計を設置して構造体の振動特性をさらに明らかにした上で必要な構造補強方法を提示すること、オルソ画像を作成した上で、これに各石材の破損状態、補修方法と解体範囲を図示し、修理事業費の積算が可能な水準での設計資料を整えることです。このため、9月以降に再度の現地調査を予定しています。

敦煌壁画に関する共同研究と研修者派遣

莫高窟第285窟での撮影調査

 第5期「敦煌壁画の保護に関する共同研究」は2年目を迎え、5月8日から3週間の日程で敦煌莫高窟にメンバーを派遣して、今年度前半の合同調査を実施しました。調査は、昨年度からの継続で、西暦538、539年の紀年銘を持ち、仏教のみならず中国の伝統的題材に彩られることで重要視されている第285窟での、光学的方法による撮影、顕微鏡や分光反射率測定などによる分析的研究を行いました。また、名古屋大学と共同の放射性炭素年代測定による石窟の年代同定研究のために、第285窟のほか莫高窟最初期窟とされる第268、272、275窟の壁体からサンプルの追加採取を実施したほか、夏に予定されている本年度後半の合同調査、および秋以降の敦煌研究院来日研修者との共同研究に向けて、各種の準備を行いました。いっぽう、この調査チームとともに3名の大学院博士課程で学ぶ学生が莫高窟に行きました。彼らは、昨年度から実施している「敦煌派遣研修員」として、公募により選抜されました。保存科学、絵画修復、文化遺産管理とそれぞれに異なる専門領域からの参加で、9月中旬までの4ヶ月間、敦煌研究院保護研究所の専門家の指導を受けて、壁画保護のための多岐にわたる内容の研修を受けます。この研修は今後さらに3年間を予定しており、壁画の保存修復を直接学ぶ機会のほとんどない日本の若手専門家が、将来にわたり国内外で活躍するための大きな門戸を開くものとなります。

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